起業に関する情報を提供するSwitch On Businessが、LinkedInに掲載されている米テック大手の従業員のプロフィールを基に、転職者の動きを調査したレポート「Which tech giants attract the most talent from competitors?」を公開した。それによると、Googleが経験豊富な人材を最も多く確保しており、Metaが最も活発に競合からヘッドハンティングしている。しかし、これまで有能な技術者を独占してきたテック大手が大規模なレイオフを実施し始め、人材が異業種へ流出する傾向も見られる。
Switch On Businessは、Adobe、Google (Alphabet)、Amazon、Apple、Intel、Meta、Microsoft、IBM、Tesla、Oracle、Netflix、Nvidia、Salesforce、Uberの現在の従業員数を調べ、それぞれの企業ペアについて、現在テック大手で働いている従業員が、以前に他のリストアップされた企業で働いていたかどうかを調査し、集計した。
過去に他のテック大手で働いた経験を持つ従業員の割合が最も高いのはMetaで26.51%。4分の1以上が競合からの転職である。次に高いのはGoogleで24.15%。ただし、全体の従業員数が多いため、転職者数は最も多い(38,316人)。
Googleに移った人の内訳は、Microsoft(12,018人)、Amazon(8,023人)、IBM(5,825人)、Oracle(4,318人)、Apple(3,858人)など。テック産業から幅広く人材を獲得しており、多くの技術者が目指す企業であり続けている。Googleからの転職先のトップはMeta(3,363人)、次いで検索事業を強化するMicrosoft(2,690人)、Amazon(2,150人)である。
ユニークなのはIBMで、他のテック大手で働いた経験を持つ従業員がわずか2.28%である。同社は応募者に広く門戸を開き、公教育プログラム「P-TECH」でIT人材育成に取り組むなど、育成に力を注いでおり、実習生の90%以上が正社員になっている。IBMからの転職者を最も多く採用しているのはMicrosoft(7,937人)だ。両社はどちらも複雑な事業ポートフォリオを持ち、重複する部分も多く、IBMは上級社員に厳しい競業避止義務を課している。
Appleにおいて、他のテック大手で働いた経験を持つ従業員は5.70%だ。Intelからの転職者が最も多い(4,773人)。独自のチップ開発の強化に加えて、2019年にIntelからモデム事業を買収したことで約2,200人のIntel社員がAppleに移籍した。一方、Appleからの転職先は、Google(3,858人)、Amazon(1,973人)、Meta(1,911人)など、デバイス事業の強化に取り組む企業がトップ3となっている。
米テクノロジー産業ではこれまで、テック大手の人材争奪戦の中で優秀な技術者がキャリアを上げていく傾向が見られた。テック大手の間で人材が流動していた。しかし、Switch On Businessの調査結果を見ると、Googleやヘッドハントに積極的なMetaから他のテック大手への転職が少ないことがわかる。MetaとGoogleが大規模なリストラを実施していることから、退社した従業員の多くがテック産業を離れていることを示す。
新型コロナ禍で起きた過剰雇用の反動で、テック大手で経験を積んだ人材が雇用市場に流入している。金融や医療など伝統的な産業はこれまで、テック大手の魅力的な採用戦略に太刀打ちできず、事業プロセスのIT化に苦労してきた。そうした企業がテック大手でレイオフの対象になった技術者にキャリア継続の機会を提供するようになった。また、今のような過渡的な時期に有能な技術者は、高額な報酬だけではなく、今後の成長可能性や柔軟性、評価を求めるようになっている。その結果、ヘルスケアや航空宇宙、AIなど今後の成長が見込まれる分野において、スタートアップや中小企業でも有能な人材を引きつけることが可能になっている。