金沢大学、東京大学(東大)、広島大学、東北大学の4者は11月24日、NASAが運用中の高エネルギーガンマ線観測衛星「フェルミ宇宙ガンマ線望遠鏡」(フェルミ衛星)と、広島大 宇宙科学センターが運用する東広島天文台の「かなた望遠鏡」を用いて、宇宙最大の爆発現象である「ガンマ線バースト」(GRB)からのガンマ線と可視光偏光の同時観測に成功し、ジェット内部を逆方向に進む衝撃波がガンマ線放射に寄与していることを確認したと発表した。
同成果は、金沢大 理工研究域 先端宇宙理工学研究センター/数物科学系の有元誠准教授、東大 宇宙線研究所 高エネルギー宇宙線研究部門の浅野勝晃教授、広島大 宇宙科学センターの川端弘治教授、東北大 学際科学フロンティア研究所の當真賢二教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。
GRBは、数秒から数百秒の短時間だけ爆発的にガンマ線を放つ、宇宙で最も明るく輝く天体現象だ。しかし、いつどこで起きるか不明なため、事前に予測しての観測は困難であり、現時点で正体はわかっていない。しかしこれまでの研究から、その詳細な仕組みは、大質量星が重力崩壊した後にブラックホールが誕生した瞬間、プラズマのジェットが光速に近い速度(亜光速)で噴き出し、そのジェット内で衝撃波が形成され、そこで高エネルギー粒子が加速されることで、磁場と相互作用することでガンマ線が放射され、それがGRBとして観測されると考えられている。ただし、どのような機構がジェットを亜光速まで加速しているのか、また衝撃波内にどのような磁場が形成されることでガンマ線が放射されているのかは未解明のままとなっている。
そうした中、フェルミ衛星やそのほかのGRB観測衛星が2018年7月20日に、うお座に近い方向の61億光年彼方から到来した高エネルギーガンマ線が1000秒にわたって検出し、それは「GRB 180720B」と命名された。そして、発見と同時に地上の望遠鏡や研究者にすかさずアラートが送られ、GRB発生から80秒後という極めて早い時間帯から可視光での観測を開始したのがかなた望遠鏡だった。GRBはすぐに暗くなってしまうため、早くから観測できたことで、極めて良質のなデータを得ることができたという。
またかなた望遠鏡は、ほかの地上望遠鏡では観測が困難な「偏光」情報を得られる点も特徴であり、これにより世界で初めて高エネルギーガンマ線と同時の偏光検出が達成されたとする。この可視光放射は「シンクロトロン放射」によって起きると考えられており、偏光観測で光の偏りを調べることで放射が起きている現場の磁場構造を知ることが可能である。そして、得られたデータが詳細に解析されたところ、亜光速ジェットの内部に、その進行方向とは逆向きに進む衝撃波が発生し、そこから可視光やガンマ線が強く出ていることが確認された。ちなみにこの放射の持続時間は数百秒しかなかったため、フェルミ衛星とかなた望遠鏡の素早い連携観測が功を奏したと研究チームでは説明している。
さらに偏光情報から、衝撃波中の磁場構造がドーナツ型の「トロイダル磁場」であり、磁場が非常に乱れた乱流構造であることも判明。そして衝撃波の放射が終わった後、今度はジェットと同じ方向に進む衝撃波からもガンマ線が観測されたという。今度の衝撃波の磁場構造は放射状であり、2種類の衝撃波でまったく異なる磁場構造であることが明らかになった。特に逆方向に進む衝撃波は、GRBのジェット内の情報を有しており、その起源に関するヒントを与えてくれるとした。
なお、ジェットを亜光速まで加速するメカニズムの1つとして理論的に提案されているのが、ブラックホールを貫く磁場を介し、その回転エネルギーでジェットを加速する「磁場駆動モデル」である。同モデルは、ブラックホールの回転で磁場がねじれ、ジェット内にドーナツ型の磁場が作られることを予言したものだが、今回の研究により、逆方向への衝撃波中でドーナツ型の磁場が観測されたことは同モデルを支持する結果であり、ジェットの謎を解明する大きな一助といえるとしている。
また、磁場の乱流が観測されたことも非常に重要だという。衝撃波内でガンマ線を生み出す粒子を、高エネルギーまで効率よく加速するため、磁場の乱流が必要と考えられてきた。今回の結果は、そのような理論モデルの妥当性を示す直接的な証拠であるといえるとしている。
近年、従来の定説だったシンクロトロン放射では説明できないほどの超高エネルギーのガンマ線放射が見つかり、ガンマ線の生成機構の理解が徐々に進みつつあるという。今回の研究成果は、ジェットの謎の解明にもつながる可能性があるとしている。