米国政府が2023年10月、中国への半導体製品の輸出制限を拡大し、NVIDIAの中国向けAIサーバGPU「A800/H800」や、AMDのMI200/300シリーズ、IntelのGaudi 2/3といった製品なども規制対象とされた。
2022年9月に米国政府は、NVIDIAのA100/H100やAMDのMI200シリーズなどといった先端AIサーバGPUの輸出制限を課したが、その際、米国商務省は各社に1年間の猶予を与えていた。しかし、最近の規制では、対象製品が拡大され、かつ猶予期間をほぼ与えないという動きを見せており、輸出許可がなされていない国の企業や機関は、少なくとも今後数年間は、ある程度の性能しか発揮できないAI半導体のみ入手できることとなっている。
さらに米国政府の要請を受けた日本およびオランダでも、露光装置の輸出管理を厳格化。従来の先端半導体向けのみならず、28/22nmプロセス向けといったレガシープロセス向け露光装置も対象とされた。こうしたAI半導体ならびに半導体製造装置に対する米国政府による規制拡大は、中国のみならず、AI開発において中国の機関や企業と協力する可能性のある国々も対象としたものとなっている。
中国勢に残された選択肢は独自の設計と製造
こうした環境下において、中国が効率的なAI向けコンピューティングリソースを確保するためのシナリオとしては、「AIサーバ向け半導体を自社で設計、ならびに中国内で量産する」、もしくは「クラウドサービスプロバイダ(CSP)のコンピューティングリソースを利用する」の2つのみに絞られると台湾TrendForceは指摘している。
また、米国政府も現在、半導体管理政策にCSPを含める可能性について議論していることから、今後、中国勢がCSPを活用し続けられるかどうかは不透明であることから、AI向け半導体を独自に設計および製造することが唯一の選択肢になるとする。
このような状況からTrendForceは、中国のCSPによる中国内でのAI半導体開発が加速すると予想している。
すでにBaiduは2019年にXPUを活用した第1世代Kunlunチップのテープアウト完了を発表。2020年初めに量産が開始され、2021年までに第2世代が量産され、2~3倍の性能向上を達成。第3世代は2024年にリリースされる予定である。Baiduは、独立した研究開発とは別に、Nebula-Matrix、Phytium、Smartnvyなどの関連企業にも投資しており、2021年3月にAIチップ事業を分割して崑崙新を設立するといった動きも見せている。
Alibabaは2018年4月に中国のCPU IPサプライヤC-Skyを買収し、同年9月にT-head Semiconductorを設立した。最初の自社開発チップであるHanguang 800を2020年9月に発売したほか、中国のメモリ大手CXMT、AI IC設計会社Vastaitech、Cambriconなどにも投資している。
Tencentは2018年に中国AI半導体メーカーEnflame Tech に投資する戦略を採用したほか、2020年にはIC設計と研究開発に重点を置くTencent CloudおよびSmart Industries Group(CSIG)を設立した。2021年11月、Tencentは画像およびビデオ処理、自然言語処理、検索レコメンデーションに2.5Dパッケージを活用したAI推論チップZixiaoを導入している。
Huawei傘下のHisiliconは、AIオープンソースコンピューティングフレームワークMindSporeとともに、2019年8月にAscend 910を発表したが、その後、米国の禁輸リストに含まれたため生産が制限されることとなった。2023年8月、中国のテクノロジー企業iFLYTEKはHuaweiと共同で、新しいAIチップAscend 910Bを搭載した「StarDesk AI Workstation」を発表した。これはおそらくSMICのN+2プロセスを使用して製造されており、Huaweiが自社開発のAIチップに回帰したことを示すものとなっている。
一部の中国企業がAscend 910Bを採用
Ascend 910Bは、Huaweiの社内専用チップではなく、他の中国企業にも販売されている。伝えられるところによると、Baiduは8月、200台のBaiduデータセンターサーバ向けに約4億5000万人民元相当のAscend 910Bチップ1600個をHuaweiに発注したとされる。これらの納品は2023年末までに完了する予定で、10月時点で注文の60%以上が納品済みだという。これはHuaweiが他の中国企業にAIチップを販売する能力があることを示している。
Ascend 910Bの性能は、中国企業のテストによると、NVIDIA A800の約80%だとされる。ただし、ソフトウェアエコシステムの観点では大きなギャップが依然として存在しているとされる。
なお、TrendForceでは、全体としてAI学習にAscend 910Bを使用するのは、A800よりも効率が悪い可能性があると指摘しているが、米国の規制強化により、中国企業はAscend 910Bに頼らざるを得なくなっているのが現状であり、逆に採用数が増えるにつれて、そのエコシステムは改善されていき、より多くの中国企業がAscend 910Bを採用することになることが予想されるとしている。ただし、その実現には長い時間が価格見込みだともしている。