丸三海運、アイディア、スカパーJSAT、日本無線、NTTワールドエンジニアリングマリンの5者は11月22日、内航海運業界における課題解決に向けた運航効率化や労務環境改善、海上輸送事業での高付加価値創出の実現に向けて、海上で途切れない高速通信とそれにより発揮される内航(国内の海運)船舶のデジタルトランスフォーメーション(DX)の評価のための実証実験を行ったことを発表した。
今回の実証実験では2023年3月~8月に、NTTワールドエンジニアリングマリンが提供する船舶用定額データ通信サービスで、沿岸域での通信が可能なLTE回線サービス「マリタイムモバイルA-II(エースツー)」と、スカパーJSATが保有するVSAT衛星および陸上運用拠点を利用した、西太平洋からインド洋の主要な航路をカバーする高速インターネット接続(陸→船の下り最大50Mbps)を実現する海洋ブロードバンドサービス「JSATMarine(ジェイサットマリン)」を内航船舶向けに最適化したサービスの「JSATMarine Light」を、日本無線が協力して組み合わせ、大阪~沖縄航路において途切れない通信環境が整備された。そして、丸三海運が運航する大阪~沖縄航路のコンテナ船「島風(しまかじ)」に導入されているアイディアが開発した船舶の運航管理をデジタル化する「Aisea PRO」を、大阪~沖縄間の途切れない通信状況下で運用することで、陸上管理者がリアルタイムに船舶情報を把握することを可能としたというものだという。
これまで通信ができない状況下では、予測に頼ったり、事後データを扱ったりする必要があったという。しかし、今回の実証実験ではリアルタイムデータを扱うことにより、(1)船舶動静管理のリアルタイム管理(運航効率の向上)、(2)船員向け福利厚生通信の提供、(3)平面アンテナの安定稼働の成果などの成果を上げることができたとする。
(1)によって、陸上管理者から航海中の島風への動静確認(位置・速度など)をする必要がなくなり、陸上管理者および船舶乗組員(当直者)の電話応答などの業務負荷を軽減できたとするほか、荷主へのリアルタイムでの位置情報の提供が可能となり、輸送サービス品質が向上。また、ブリッジに設置されたカメラにより、気象海象や航行状況の確認が可能となり、陸上管理者と連携した安全航行に寄与したという。特に、悪天候時には気象海象の状況を把握しやすく、島風とのコミュニケーションをスムーズに行えたとしている。
また(2)によって、衛星回線とLTE回線の組み合わせにより、航行中どこでもつながる通信環境が実現されたことで、船員は休憩時間にSNSで家族や友人とコミュニケーションを図れるようになるなど、陸上と変わらない通信環境の提供が実現されたとする。台風からの退避で海上での停泊が数日間続いた際には、特に有用だったという。ただし、データ量の大きいコンテンツはダウンロードに時間がかかり、スムーズに閲覧できないこともあったとするほか、衛星回線導入当初はLTEから衛星への切替がスムーズに行かず、圏外になるなど、不安定な通信状況がしばしば発生したが、衛星回線への優先接続設定を行うなど、対策を講じることで解決されたとする。
さらに(3)については、今回VSAT衛星回線利用にあたって、米Kymeta製の平面アンテナ「Hawk u8」が設置されたが、故障もなく船上での利用にも十分に耐えうることが確認されたとしている。
これらを活用した実証実験について研究グループでは、船舶の現在位置や動静連絡、カメラ映像など、運航効率に必要な情報を、陸上管理者が常にリアルタイムで把握することで、効率的な運航管理が実現できることが実証されたとしている。
なお、今後については、大容量データの送受信や、衛星回線とLTE回線の安定的な切り替えなどの課題の解決に加え、リーファーコンテナのステータス管理など、さらなる高付加価値の創出や、内航海運業界のDX推進に向けたサービスのパッケージ提供体制をベンダー各社で構築することにより、内航船業界の持続的発展に向けた取り組みを進めていくとしている。