科学技術振興機構(JST)は19日、優れた研究を行う若手女性研究者を表彰する第5回「輝く女性研究者賞」(ジュン アシダ賞)を立命館大学理工学部の長谷川知子准教授に、科学技術振興機構理事長賞を室蘭工業大学大学院工学研究科の太田香教授に贈ると発表した。女性研究者の積極支援に貢献している機関を表彰する「輝く女性研究者活躍推進賞」は今回は該当なし。
表彰式は同日、JSTのイベント「サイエンスアゴラ2023」の一企画として、テレコムセンター(東京都江東区)のオープンスペースにて開催された。山東昭子参議院議員をはじめ来賓も多く参列し、サイエンスアゴラ入場者も観覧できる開かれた表彰式となった。
長谷川氏は、世界各国の農業・土地利用において、気候変動政策や食料問題への影響に関する解析を独自開発したシミュレーションモデルを用いて行い、顕著な成果を挙げている。特に、将来の温室効果ガスの急激な排出削減が食料消費や飢餓リスクにもたらす悪影響の指摘は世界的に注目されている。また、国際的リーダーを目指す人材の育成に貢献していることも評価された。
太田氏は、次世代通信のBeyond 5G/6Gで注目される高周波数帯(ミリ波)を活用するための特殊な反射板RIS(Reconfigurable Intelligent Surface)の研究を推進。通信効率の最大化や、RISの設置場所の最適化において功績が大きく、中国・カナダを中心に、多くの海外共同研究を展開している。さらに、研究活動と並行して、学内外で女性研究者のロールモデルに関連した講演を行い、若手女性研究者の育成における実績も豊富である。
続くトークセッションには受賞者のほか高校生2名も参加。「こんな未来が待っていた―女性研究者の日常」と題して、高校生が持つ研究者のイメージから議論がスタートした。
高校生から見ると、研究者は研究室にこもって、実験に没頭しているイメージがあるという。それに対して長谷川氏、太田氏ともに、「国際会議などに出席したり、運営に携わったり、グローバルな研究機関と連携することも多い」と自らの経験談を紹介した。
また、「自分のやりたいことと研究の両立など、どのようにタイムマネジメントすれば良いのか」といった質問に対し、長谷川氏は「目先のことだけで判断せず、長い目で見て重要なことを優先した方が良い」とアドバイス。さらに、「自分の立てた仮説と違う結果が出たとき、どのように考えれば良いのか」との質問には、「一人で抱え込むと迷路に迷い込むことがあるので、いろんな人と話をして意見を聞いてみるのが大事」と太田氏が回答した。
最後に若い世代へのメッセージとして、長谷川氏は「これを機に環境問題に関心をもってほしい」と語り、太田氏は「自分は高校生の時には研究者になると思っていなかった。ぜひ皆さんも大きな夢を持って人生を歩んでほしい」とエールを送った。
輝く女性研究者賞は2019年、世界的デザイナーだった故芦田淳氏の基金をもとに創設された。今年も4~6月、原則40歳未満を研究者の対象として公募。鳥居啓子米テキサス大学教授を委員長とする選考委員会で審査した。各受賞者にはJSTから賞状と賞牌(しょうはい)が、長谷川氏には副賞として同基金から100万円が贈られた。
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