住友電気工業(住友電工)は11月17日、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託する「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」の一環として、新規結晶技術を用いて従来比で2倍となる高出力密度を実現した窒化ガリウムトランジスタ(GaN HEMT)を開発したことを発表した。
ポスト5G社会で必須となる高速・広帯域無線通信網において、通信基地局の中核を担う高周波増幅器には、さらなる小型化・高出力化が求められている。4Gの普及以降、増幅器においては、低消費電力性に優れるGaN HEMTの利用が急速に広がっている。しかし既存技術では高出力化の限界が近づいており、抜本的な特性改善につながる新技術が期待されているという。
こうした背景のもと、NEDOは2020年度より、高出力増幅器の開発に取り組んでいるとのこと。そして今回、その一環として技術開発に取り組む住友電工により、新たなGaN HEMTが開発されたとしている。なお同社によると、今回の成果は大きく2つあるという。
今回の発表成果
- 新規結晶(N極性)を用いたGaN HEMTの開発
- 新開発GaN HEMTの特性および高出力密度
まず前者について、従来のGaN HEMTではGa極性が広く用いられてきたという。他方、N極性を用いると素子設計の自由度が高まり、二次元電子濃度の上昇が容易になるため、GaN HEMTのさらなる高周波化・高出力化を実現する技術して注目されている。しかしN極性のGaN結晶は、ヒロックと呼ばれる結晶欠陥が生じやすいため結晶の品質を高めるのが難しく、またN極性のGaN HEMTの実現には、高品質なゲート絶縁膜の開発が必要だという課題もあったとのことだ。
そこで今回は、ヒロックの無い高品質なN極性結晶を実現するとともに、電子を供給するバリア層などの最適化を進めることで、250Ω/□(オームパースクエア)という極めて低いシート抵抗を持つ結晶成長を実現したとする。また、GaN HEMTの接触抵抗を低減するため、二次元電子とオーミック電極(電流経路のソース・ドレイン電極を二次元電子と低抵抗で接合させるための電極)との間に低抵抗となる高濃度n型ドープ層を挿入した「高濃度n型ドープGaN(n+ GaN)」の形成技術を開発し、オーミック電極の接触抵抗を0.13Ω・mmへと低減させることに成功したという。さらに、ハフニウム(Hf)形のゲート絶縁膜の高品質化技術と組み合わせることで、GaN HEMTの電流値増大による出力密度の向上を実現したとしている。
次に後者について、今回開発されたN極性GaN HEMTの電流電圧特性は、ミリ波向けデバイスにおける従来技術のGa極性を上回る2A/mmを超える最大電流を実現するとともに、耐圧も60V以上へと向上させ、大電流と高耐圧を両立したとする。また、開発したN極性結晶を用いたGaN HEMTの高周波特性は、測定周波数28GHzにおいて最大出力29.8dBmが得られ、トランジスタのゲート幅換算で12.8W/mmの最大出力密度が達成された。住友電工によると、この出力密度は従来技術比で2倍以上となるとともに、N極性として世界最高クラスを実現したという。
同社は今回の開発成果について、ポスト5G情報通信システムの中核をなす基地局向け増幅器に実装することで、小型化・高性能化に貢献するとし、それに向けて新規結晶やゲート絶縁膜の信頼性向上および広帯域増幅器の技術開発を、継続事業の中で進めるとしている。