新潟大学(新大)と富山大学の両者は11月17日、マーモセットの卵巣をマウスの腎臓被膜下に移植する「異種間卵巣移植」を行い、マウス体内で発育させた「卵胞」(卵母細胞を取り囲む細胞および膜)から、マーモセットの未成熟な卵子である「卵母細胞」を採取することに成功し、さらに採取した卵母細胞を体外で成熟・受精させ、「胚盤胞」(子宮に着床することが可能になった胚)まで発生させることにも成功したと共同で発表した。

同成果は、新大 脳研究所(BRI) モデル動物開発分野の平山瑠那大学院生(現・富山大大学院 生命融合科学教育部 認知・情動脳科学専攻 行動生理学講座 大学院生)、BRI 動物資源開発研究分野の竹鶴裕亮特任助教、新大名誉教授の﨑村建司博士、BRI モデル動物開発分野の阿部学准教授、BRI 動物資源開発研究分野の笹岡俊邦教授、富山大 学術研究部 医学系(富山大大学院 生命融合科学教育部 認知・情動脳科学専攻行動生理学講座)の高雄啓三教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

マーモセットは小型の霊長類で、ほかのサルと比較して妊娠期間が短く、一度の出産数も2~4頭と多いという特徴を持つ。このような点を活用して、マーモセットに遺伝子改変を施し、ヒト疾病などのモデル動物として用いようとする研究が進められている。

遺伝子改変マーモセットを作製するためには、多くの卵子が必要となる。しかし、メスからの採卵は長期的なホルモン投与と外科的手術を組み合わせた方法が主流で、マーモセットへの負担が大きいばかりでなく、動物の飼育・維持のための広い施設や多くの費用と労力も求められることが課題だ。そこで研究チームは今回、そうした課題を解決し、小規模な動物実験施設でも遺伝子改変マーモセット作製に取り組めることを目指した研究開発を行ったという。

今回の研究では、全国のマーモセット研究施設から、実験死や病死により未利用のまま廃棄される予定だったマーモセット卵巣の分与を受け、細胞性免疫によって移植組織が排除されない免疫不全マウスの腎臓に移植することで発育させ、胚生産可能な卵子を得ることに取り組んだとする。

  • 今回の研究の概念図

    今回の研究の概念図。全国の研究施設から分与された廃棄予定だったマーモセットの卵巣を細かく切り分け(1)、卵巣が除去された免疫不全マウスの腎臓被膜下へ移植(2)。次にホルモン投与により、移植されたマーモセットの卵巣内の卵胞を発育させ(3)、マウス腎臓から採取された卵母細胞を体外で成熟、受精させて胚が発生させられた(4)(出所:共同プレスリリースPDF)

研究チームによると、新手法の確立にあたって特に重要だった条件が、マウス腎臓へ移植するマーモセット卵巣組織片の大きさと、マウスに移植した卵巣から採取した卵母細胞の体外受精前の成熟培養時間の至適化だったとのこと。冷蔵輸送で分与されたマーモセット卵巣は、細切れにした組織片の状態で移植に用いられるが、この組織片の大きさを調整することで組織片の腎臓への生着を促すことに成功したという。

移植後は、卵巣を移植したマウスにホルモン投与を行い、マーモセットの卵胞発育が誘導された。その後、マウスの腎臓で発育した卵胞から卵母細胞を採取し、体外で成熟させてから体外受精を行ったとする。この時、異種間移植ではない通常の動物個体から卵母細胞を採取した時よりも培養する時間を長くすることで、受精率を向上させることができたとしている。

今回の手法において卵巣保存から胚培養までの条件を細かく整えることで、異種間卵巣移植由来の卵子を着床が可能な段階である胚盤胞まで発生させることができるようになった。今回のアプローチは、霊長類モデルの使用を通じて、遺伝子組換え研究や疾患モデルの進歩に貢献する可能性があるといい、ヒト以外の霊長類を用いたバイオテクノロジーの進展や、動物実験適正化の国際原則である「3R原則」の遵守にも貢献するとしている。また今回の手法を用いることで、小規模な研究施設でも比較的廉価に遺伝子改変マーモセット作製に着手しやすくなり、ヒト疾患研究の発展が加速されることが期待できるという。

  • (左)マウスの腎臓に移植したマーモセット卵巣の組織像。(右)異種間卵巣移植由来の卵子から体外受精後に得られた胚盤胞の顕微鏡画像(HE染色)。

    (左)マウスの腎臓に移植したマーモセット卵巣の組織像(HE染色)。卵胞内の卵母細胞(▲)と未発育の卵母細胞(↑)が示されている。(右)異種間卵巣移植由来の卵子から体外受精後に得られた胚盤胞の顕微鏡画像(出所:共同プレスリリースPDF)

また、今回の手法により卵子を取得するマーモセットの負荷を減らすことができ、実験動物の福祉の向上にも貢献することが期待できるとのこと。そのためにも、今回生産に成功した胚が実際に産仔になることを確認し、遺伝子改変マーモセット作製への有用性を確かなものにする必要があるとした。

一方で、今回の研究で得られた胚盤胞は、いまだ樹立が難しいナイーブ化ES細胞、すなわち身体の全細胞に分化できる細胞の樹立にも応用可能だといいう、さらに今回の研究で開発された胚操作技術は、ヒトの生殖補助医療の発展に貢献することも期待されるとしている。