九州大学(九大)は11月17日、従来のシアノバクテリアがもつ生体機能の一部の代謝系を、光触媒を用いて代替することと、生成したアンモニアの代謝を抑止することにより、常温・常圧下で窒素と水からアンモニアと水素を合成することを可能にしたと発表した。
同成果は、九大 カーボンニュートラル国際研究所(三井化学カーボンニュートラル研究センター)の石原達己教授、同・Kosem Nuttavut特任助教、同・大﨑穣特任助教らの研究チームによるもの。詳細は、触媒の環境に対する応用に関する全般を扱う学術誌「Applied Catalyst B Environment」に掲載された。
アンモニアは、肥料として食物の生産に必要不可欠な化学原料であると同時に、各種工業プロセスや薬剤を合成するためにも重要な基幹工業原料だ。さらに今後は、グリーン水素の可搬媒体としても期待されており、その利用が急速に拡大することが予想されている。現在、アンモニアは鉄系の触媒を用いて大気中の窒素と水素からハーバー・ボッシュ法によって合成されているが、窒素の活性化と化学平衡の観点から、400℃程度の高温と200気圧以上の高圧が必要とされ、エネルギー消費が大きいこと、そしてCO2排出量が多大なことが課題となっている。
その一方で、根粒菌のリゾビウム属などの一部の細菌は、酵素「ニトロゲナーゼ」を用いて、エネルギー通貨と呼ばれる「アデノシン三リン酸」(ATP)をエネルギー源とし、大気中の窒素をアンモニアに変換する反応を触媒している。この反応では、窒素の活性化は室温かつ常圧下で行われている点が、ハーバー・ボッシュ法に比べて大きく優れた点だが、反応速度が遅いことと、ニトロゲナーゼの不安定性から長時間の反応を行うことができないなどの欠点もあった。また生体触媒では、生成したアンモニアを用いてタンパク質を合成するため、アンモニアとしての生成速度が小さいことも課題だったとする。そこで研究チームは今回、ニトロゲナーゼの優れた点はそのままに、反応時間の高速化と反応の長時間化を試みたという。
今回の研究では、無機光触媒としての「チタニア」(TiO2)と、電子伝達系としての「メチルビオロゲン」(MV)が用いられた。光触媒の光励起で発生した電子を、MVを通して酸素発生型光合成を行う原核生物「シアノバクテリア」の細胞内のニトロゲナーゼに直接伝達することで、常温・常圧下の条件はそのままに、大気中の窒素と水からアンモニアと水素を合成する反応速度が、従来の生体システムに比べて82倍という大幅な高速化が達成されたとのこと。この比較的早い反応速度は、従来の報告と比べても40倍以上の生成速度になるという。
また今回の高速化が実現できた要因として、研究チームは、シアノバクテリアの培養条件を最適化し、ニトロゲナーゼを含む「ヘテロシスト細胞」を増加させたこととしており、また100時間以上の長時間にわたって反応を行うことができたとする。
研究チームは今後、アンモニアの生成速度をさらに向上させることを目的に、ほかのタイプのニトロゲナーゼの応用と長期安定性の向上、電子伝達系の高速化、無機光触媒の可視光応答化による太陽光エネルギー変換効率の向上などの研究を進めていくとする。特に、電子伝達系を工夫することで、アンモニアと水素の生成速度の向上が期待できるという。その一方で、5年ほど先の実用化を見据えてパネル型の反応器への応用も行い、実用性を三井化学と連携して進めていくとしている