半導体・電子部品商社であるマウザー・エレクトロニクスは11月16日、2023年の事業概況などに関する説明会を3年ぶりに都内で開催。2024年春には巨大な新倉庫を稼働させる計画であることを明らかにした。
2023年はチャレンジングな年に
Mouser Electronicsでグローバルサービス&EMEAおよびAPACビジネス担当シニア・バイス・プレジデントを務めるマーク・バーロノン氏は、最近の同社を取り巻く環境について、「元々カタログを活用したビジネスを主体としていたが、新型コロナ前から徐々にオンラインの比率が高まっていたものの、新型コロナの世界的なパンデミックでその比率が一気に高まった」とし、同社の業績が2020年に前年比9%増の20億ドルを突破して以降、2021年には世界的な半導体不足もあり同60%増、2022年も同23%増と急伸しており、40億ドルを突破。地域別でみても、アメリカ地域(AMR)で同25%増の16億ドル強、ヨーロッパ・中東・アフリカ(EMEA)で同31%増の13億ドル強、アジア・太平洋(APAC)で同19%増の10億ドル強と、「すべての地域で10億ドルを超す規模に成長できたことは注目すべきポイント」(同)とする。
しかし、2023年は2022年より続く世界的なインフレ、資源価格の高騰、ロシアのウクライナ侵攻などによる消費者マインドの冷え込みなどの影響もあり、同社にとっても「チャレンジングな年になっている」とする。1月から10月までの売り上げ合計は前年同期比7.9%減の32億ドル弱、地域別でみるとAMRが同0.5%減の14億ドル強となんとか微減としているものの、EMEAが同5%減の11億ドル弱、そしてAPACが中国からの需要の減退が大きく影響し、同23%減の7億ドル弱となっており、全体の通期業績も37億ドル強程度に留まる見通しだという。
また、顧客種別での動向を見ると、売上高はメーカーなどのOEMが同7%減の14億ドル、中小EMSが同3.4%減の9億ドル、エンジニアリングサービスが同1.2%減の1億ドル強、個人アカウントが同20%増の7200万ドルとなっているほか、購入者の数そのものはグローバルで同4%増の79万強、AMRが同3%増の40万強、EMEAが同8%増の26万弱、APACが同2%減の13万弱となっており、購入者の数そのものは増加傾向にあるものの、購入金額が下がる傾向になっているという。「市場が変わってきており、2023年第4四半期も難しい時期が続いている」と同氏は現状認識を示す一方で、「2024年には市場が戻ってくることを期待しているし、市場全体としてもそういう雰囲気がある」と、2024年には半導体・電子部品業界、ならびにエレクトロニクス業界の回復が期待されるとの見解を示した。
世界的なオンライン購入需要の高まりを受けて倉庫を拡張
市場の減速もあり、2021年の半導体不足の際から大きくなった受注残が徐々に減少してきているが、一方で在庫の積み増しが増加傾向にあり、現在の同社の在庫状況は21億ドルほどとなっているという。ただし「マウザーとして重視しているのは取り扱う製品数の多さ。競合他社の多くは品揃えとして品番の多さよりも深さを求めているが、マウザーは他社よりも幅広く品ぞろえすることを目指している」とし、少なくとも半導体の品ぞろえは世界でもリーダークラスのポジションにあると胸をはる。
同社は現在、世界的なオンライン購入の需要の高まりをうけ、2024年春(3~4月の見込み)の稼働を目指した新たな倉庫の建設を進めているという。その広さは61万3000ft2と、2020年に拡張した倉庫の広さ26万ft2の実に2倍以上、かつ3層構造を採用した巨大なもので、従来の倉庫の広さが合計で100万ft2弱であったものが一気に2倍程度に拡張されることとなる。
また、その巨大な倉庫は可能な限り自動化が図られ、製品のピックアップのために巨大な垂直リフトモジュール(VLM)を330基稼働(従来倉庫では2020年に拡張されたエリアを中心に138基ほど)させるとするほか、自動出荷ラインを20ライン設置(従来倉庫では11ライン)される予定で、このラインすべてが稼働すると、出荷能力は現在の200%増となり、1時間あたりに処理できる注文数は現在の5000件から一気に1万5000件に引き上げられることとなるとしている。
同氏は、ここまで巨大な倉庫を設けるわけを「購入量が増えているし、入庫してもすぐに売れてしまう状況。購買行動がネットから購入するというものに大きく変わった」と、購入者側の調達様式がコロナ禍で大きくネットにシフトしたことを踏まえたものであることを強調。購入者の作りたいものも多岐にわたるようになってきており、そのニーズに応えつつ、ワンストップで必要とする部品すべてを取りそろえるためにも倉庫の拡張は必要であったと説明する。
日本の電子部品購入サイトシェアトップに
マウザー・ジャパン総責任者でマウザー本社日本担当バイスプレジデントでもある勝田治氏によると、日本地域の業績は、日本オフィスを2015年に開設して以降、順調に伸びてきており、2022年には2015年時と比べて販売金額は8倍に、顧客数は6倍に伸びたという。
特にコロナ禍に伴う世界的なパンデミックの影響で供給不足が問題となった2021年から2022年にかけてオンラインで購入できるというところに注目され、大きく伸びたとするほか、日本の場合、取引相手の口座がないと買えないという慣例が大手企業を中心にあったが、極度の部品不足の中、そんなことを言ってるわけにもいかず、口座がなくても支払いさえできれば購入できるマウザーの利点が評価されたという面もあるとしている。
また東京のみならず、名古屋圏や関西圏などの展示会などにもブースを出展してアピールするなどの地道な認知度向上に対する取り組みなどを進めてきたほか、マクニカとのパートナーシップに基づく「マクニカマウザー」からの流入も増加傾向にあり、売り上げの3割ほどを占めるまでになってきたとするなど、日本でのオンライン販売は後発ではあるものの、徐々に利用者が増えてきたことが売り上げの伸びの背景にあると分析。その結果、同社の独自調査に基づくが、2022年のオンライン販売額で競合他社を抜き、シェアトップを獲得することができたとする。勝田氏は「設立7年目にして、ようやく他社と同等に戦えるようになった。これもメーカー(サプライヤ)の支援によるところが大きい。非常にうれしいこと」と、製品を提供してくれるメーカー各社、購入してくれるユーザーに対する感謝の意を示した。
なお、2023年の売り上げは世界的な状況と大きく変わらず減速気味で、前年比で20%減程度となるとの見通しを示すが、「2023年上半期で見てみると、売り上げトップは維持できていると考えている」と競合他社も同様の状況にあるとの見方を示しているほか、「2023年下半期については、社会情勢が大きく変化していることもあり、その影響がどのようにでてくるのかを見極めている状況」と慎重な判断をしつつ、さらなる認知度の拡大などの取り組みを進め、事業の拡大を目指すとしていた。