ダイキン工業(ダイキン)、東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)、理化学研究所(理研)の3者は11月15日、エアコンの冷媒として使用されるハイドロフルオロカーボン(HFC)の「HFC-32」(以下、R32)のレーザによる遠隔検知技術を開発したことを共同で発表した。
今回の技術成果は、2023年11月16日・17日に神戸国際会議場で開催される、日本冷凍空調工業会主催の「環境と新冷媒 国際シンポジウム2023」において、実機を展示して発表を行う予定だとしている。
エアコンの冷媒ガスとして主に使用されているHFCは、近年その漏えいによる温暖化影響が国際的に問題視され、冷媒の温暖化係数(GWP)低減や漏えい対策が求められている。こうした中、日本では、2012年以前に主な冷媒として使用されていた「HFC-410A」(R410A)と比べてGWPが3分の1となる低GWP冷媒のR32への転換が進み、現在では国内向けに製造販売されている家庭用エアコンの冷媒のほぼ100%がR32となっている。また、R32はグローバルでも低GWP冷媒としての認知が広がり、すでに130か国以上で普及が進んでいる。世界的に普及が進むR32に対する漏えい対策の重要性が増すのに伴い、R32の漏えいを的確かつ効率的に発見するための技術が求められていた。
現在、エアコンのフィールドサービスで行われる冷媒漏えい有無の確認には、漏えいが疑われる箇所に検査機器を近づけて周辺の気体を採取する採気式が一般的に用いられている。しかしながら、エアコンの本体や配管は、天井の裏側など脚立が必要な高所や人の手が届きづらい狭い場所などに据え付けられていることが多いため、同検査手法は作業に手間と時間を要するだけでなく、安全性を確保しづらい場合や、検査機器を近づけることが困難な場合などもあり、課題となっていた。
そこで今回、レーザによる光学的遠隔ガス検知技術を持つ理研と、冷媒漏えい対策におけるノウハウを持つダイキンは、レーザを用いて空気中のR32を効率的に発見できる技術の開発を進め、その技術に必要なR32特有の近赤外線吸収波長帯の特定に成功。その後ダイキンは、レーザと独自の感度向上技術を用いた遠隔メタン検知器を2001年に実用化したTGESと共に、今回の研究で特定した波長に対応した高精度な波長のレーザ射出と高感度の検波が可能な機器の開発に取り組んだという。
今回開発された遠隔式の検知器は、ダイキンと理研によって特定されたR32特有の近赤外線吸収波長帯に対応した波長の赤外線レーザを射出し、壁面などで乱反射した光をレンズで集光する仕組みを採用。レーザ光の経路中にR32が存在した場合に起こる反射光の減衰を、TGESの高感度な検波技術で測定することで、R32の有無を瞬時に検知するというものである。なお、約10mの距離からの検知や窓越しの検知も可能で、従来の採気式と比べ作業工数の大幅な削減や安全性の向上が期待でき、その後の迅速な対処にもつなげられるとする。
加えて今回の技術および検知器は、R32を含む混合冷媒の検知もできるため、たとえば、以前は主要な冷媒として使われていたR410A冷媒に対しても活用可能だという。また、使用中の機器からの冷媒漏えいの検知だけでなく、撤去された機器からの漏えい検知、冷媒の再生プラントでの漏えい監視など、冷媒循環サイクルにおけるさまざまなシーンでの活用を通じた、温室効果ガス排出抑制への貢献も期待できるとのことだ。
ダイキンとTGESは今後、今回の検知器の実用化に向けて、検知感度のさらなる向上や現場で持ち運べるサイズへの小型化を図り、2025年度の実用化を目指すとしており、今回の技術および検知器の社会実装を通じて、社会貢献を目指すとしている。