エレファンテックは11月15日、台湾ICT業界大手のLITE-ON Technology(LITEON)との間で、低炭素プリント基板(PCB)の量産化推進に向けた協業覚書(MoU)を締結したことを発表。これに際し同日には、エプソンスクエア丸の内にて両社によるMoU調印式が開催された。

  • エレファンテックとLITEONが低炭素PCBの量産化に向けたMoUを締結した

    エレファンテックとLITEONが低炭素PCBの量産化に向けたMoUを締結した。(左)LITEON日本法人の日本ライトンの酒屋ヘリオ社長執行役員。(右)エレファンテックの清水信哉代表取締役

サステナビリティへの貢献に対する要求が急速に高まる昨今、日々の生活に不可欠でその数も増加している電子機器の生産についても、その製造プロセスにおける環境負荷の低減が強く求められている。中でも大きな課題が残されているのが、電子機器内部に多く使用されるPCBの生産プロセスで、金属薄膜やレジストなどを積層してから削る“引き算”のような方法であるサブトラクティブ法は、資源のムダが多いうえ、製造時の温室効果ガス排出や排水による環境汚染などが問題視されている。

こうした課題に対し、エレファンテックは、基材に対して銅インクを印刷して回路を形成し、その上に銅を成長させる“足し算”方式のPCB製造方法であるピュアアディティブ法を開発。同社が資本業務提携を結んでいるセイコーエプソンのプリントヘッドを活用した金属インクジェット技術を用いることで、CO2排出量を75%削減、水使用量を95%削減するなどの環境瀬能を発揮し、さらに製造コストも低減できるとする。

  • ピュアアディティブ法とサブトラクティブ法の比較イメージ

    ピュアアディティブ法とサブトラクティブ法の比較イメージ(提供:エレファンテック)

  • 低炭素PCBと従来品における環境負荷などの比較

    低炭素PCBと従来品における銅使用量・CO2排出量・水使用量・製造コストの比較(提供:エレファンテック)

そしてこのPCB製造技術について、2014年の創業以来約6年にわたる研究開発を経て、2020年に提携する三井化学の名古屋工場内に、エレファンテックの量産拠点(AMC名古屋)を設立したとのこと。同拠点では、改良を重ねながら定常的な製品生産が可能になったといい、2023年には設備増強によって年間数百万ピース規模での大量生産体制を構築したとしている。

  • 低炭素PCB「P-Flex」

    エレファンテックの独自技術により製造された低炭素PCB「P-Flex」

一方のLITEONは、設立から50年近い歴史を持つ台湾の電子機器メーカーで、光技術を活用した産業向けの照明やセンサ、コンシューマ向け製品の組み込み機器をはじめ、今後に向けて5G通信や電気自動車向けの製品強化を進めるなど、エネルギー効率に強みを持つ幅広い製品群を有している。

また同社は、かねてよりESGを重視して事業を展開しているといい、現在はその一環として、環境への貢献や技術革新をもたらし得る新技術を持つスタートアップに対し、コラボレーションの場などを提供することでその技術の実用化をサポートする「LITEON+」を、チェアマン直下の組織として設立。シームレスな連携を実現する共同研究拠点の設置や、M&Aおよび投資の検討を行うなど、次世代向け技術を持つ企業との連携を強化している。

  • LITEONの事業に関する説明を行った日本ライトンの酒屋氏

    LITEONの事業に関する説明を行った日本ライトンの酒屋氏

今回の連携もLITEON+によるものだといい、LITEONが提供するラップトップPCのキーボード部に搭載されるバックライトについて、エレファンテックの低炭素PCBを採用する予定とのこと。そして将来的には、LITEONが持つ多様な製品群を活用し、低炭素PCBの適用範囲を広げていくことも想定されるとする。

なおLITEONによると、バックライトを搭載したキーボードの生産台数は年間で約200万台に上るといい、エレファンテックの低炭素PCBを搭載したモデルについては、2024年内のリリースを目指しているとする。一方でエレファンテック執行役員の伊藤圭亮CFOによれば、まだ現時点ではすべてのキーボード製品の基板を置き換えられるほどの生産能力が確保できているわけではないといい、「今後はLITEON側の生産拠点でのPCB製造装置の設置など、充実した生産体制の構築についても検討を進めていく」と話した。

エレファンテックの清水信哉CEOは、現時点で同社PCBの採用が発表されている2社(EIZO・フクダ)の事例を挙げ、これまで国内向けの小規模生産に対応してきたとしたうえで、今後は国外向けにも提供範囲を広げる姿勢を見せ、欧米での事例の発表が控えていることも示唆した。また今後については、今回採用が発表されたキーボード用バックライト向け製品での適用を契機として、「最終的には我々の低炭素PCBがグローバルスタンダードになっていくため、非常に重要な提携だと考えている」と語った。

  • エレファンテックの清水CEO

    「グローバルスタンダードにしていく」と意気込みを語ったエレファンテックの清水CEO

  • 調印式にて両社代表が署名を行った

    調印式にて両社代表が署名を行った