ガートナージャパン(Gartner)は11月15日、開催中の「Gartner IT Symposium/Xpo 2023」において、2024年に日本企業が押さえておくべきクラウド・コンピューティングのトレンドを発表した。2026年問題、コスト最適化、マルチクラウド、生成AI、ソブリン・クラウドなど11のキーワードを挙げた。
Gartnerが2024年に向けて日本企業が押さえておくべきクラウド・コンピューティングのトレンドとしてあげたのは、「2026年問題」、「クラウドの正しい理解」、「コスト最適化」、「ハイブリッド・クラウド/Newオンプレミス/オンプレ回帰」、「マルチクラウド」、「サービス・ファクトリ」、「生成AI」、「ハイパースケーラーのトレンド」、「ソブリン・クラウド」、「クラウド人材・組織」、「クラウド戦略」──という11のキーワード。
「2026年問題」について、Gartnerのディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリスト・亦賀忠明氏は、産業革命クラスの変化に対応できない企業は、クラウドが誕生して20年になる2026年にはますます時代に取り残され、企業としての競争力の低下、企業自体の存続の危機につながる可能性があると指摘する。
「クラウドの正しい理解」に関して、企業がクラウドによる真のメリットを得るには、クラウドを正しく理解し、システム・インテグレーターに丸投げせずに「自分で運転」できるエンジニアを自社に増やしていく必要があり、それには企業とエンジニアの両方に、新しいスキル、マインドセット、スタイルが求められるとしている。
「コスト最適化」について、クラウドインテグレーションはコストについてもシステムインテグレーターに丸投げせず、自分でコスト最適化に取り組む必要があると指摘。2026年までにクラウドを「自分で運転」し始めている企業の30%は、クラウド関連のコストをオンプレミス時代の10分の1にまで抑制するとGartnerはみている。
「ハイブリッド・クラウド/Newオンプレミス/オンプレ回帰」に関しては、亦賀氏は「すべてが外部クラウドになるということは、もともとありませんし、クラウドを止めてオンプレミスに戻ったといういわゆる『オンプレ回帰』という現象が見られているわけでもありません。オンプレミスか、クラウドか、を問うのは過去の話になりつつあります。重要なことは、『オンプレ対クラウド』の議論ではなく、企業として時代の変化に対応できるようなスタイル・チェンジができるかどうかです」と述べている。
「マルチクラウド」とは、複数のパブリック・クラウド・プロバイダーが提供するクラウド・サービスを意図的に使用することを指している。クラウド・プロバイダーによるロックインのリスクを低減する可能性が期待され、特定のユースケースに最適な機能を提供するほか、俊敏性やスケーラビリティ、弾力性というクラウドのメリットに加えて、サービスの復元力と移行の機会をもたらすという。
「サービス・ファクトリ」は、クラウド・ネイティブを中心とする多様なテクノロジや方法論を包括し、アプリケーションやインフラをサービスとして提供するための、いわゆる「サービス・デリバリ」フレームワーク。企業はサービス・ファクトリを新たなビジネスの基盤として捉え、自動化を積極的に進めることで、ビジネスを段階的にスケールできるようになるという。
「生成AI」については、現在、多くの企業が生成AIを積極的に試行・実験し始めており、大規模AIスーパーコンピュータの開発や大規模言語モデル (LLM) 開発用途、自社データへの生成AI機能の組み込みなど、クラウド・コンピューティングにおける取り組みも進化しているという。亦賀氏は次のように述べている。「AIとの共生時代が当たり前のものとなりつつあります。このような中、ハイパースケーラーによる生成AI競争はサービス・ファクトリへの生成AIの組み込みやAIエージェント、分散クラウド、空間コンピューティングに向けて加速していくでしょう」
AWS、Microsoft Azure、Google Cloudなどの「ハイパースケーラー」はさまざまなイノベーションを行っており、取り組みを加速させている一方、その取り組み姿勢には差がある状況だという。2024年は日本でもハイパースケーラーによるサービスの導入事例がさらに増えていくとみられ、企業はハイパースケーラー各社の戦略や取り組みの違いなどのトレンドを引き続き注目すべきだとしている。
「ソブリン・クラウド」は、データ・レジデンシ要件とクラウド運営の自律性を満たした管轄区域内で提供されるクラウド・サービスで、ハイパースケーラー各社もその取り組みを強化している。今後も各社の取り組みや各国政府の規制の強化などの動向を継続的に注視していく必要があるという。
「クラウド人材・組織」については、テクノロジを駆使できる企業に進化するためには生成AIなどを駆使できる実行力を獲得する必要があり、そのためには新たなテクノロジ人材が重要だという。企業はテクノロジとの向き合い方を見直し、個人や組織としてのスキル、マインドセット、スタイルを変革させるとともに従業員を大事にし、彼らが元気に活躍できる環境と整え、企業として進化していく必要があると指摘した。
「クラウド戦略」について、亦賀氏は次のように述べている。「日本企業はいつまでもクラウドについての同じ議論をしている場合ではありません。2024年はクラウド戦略のスコープとフォーカスを再設定し、2030年以降を見据えて、テクノロジを駆使したさまざまな取り組みを推進させる必要があります」