銀河の中心にある巨大ブラックホールに落ち込むガスが、実はブラックホールの成長にはほとんど使われず流れ出た後、再び落ち込んで循環していることを解明したと、国立天文台などの国際研究グループが発表した。日本が主導する南米チリのアルマ望遠鏡の観測で、天の川銀河の至近にある「コンパス座銀河」を詳しく調べ、ガスの流れの仕組みを解明する中で分かった。
ブラックホールは極めて強い重力を持つ超高密度の天体。一般相対性理論で、周囲の時空がゆがみ、光さえ脱出できないとされる。重い恒星が一生の終わりに大爆発を起こし収縮してできる。また、多くの銀河の中心には質量が太陽の100万倍以上の巨大ブラックホールがある。ブラックホールの質量は、周囲から落ち込むガスの流れ「降着」によって増す、つまり成長すると考えられているが、その仕組みや出入りするガスの量などの詳細は分かっていなかった。
研究グループはアルマ望遠鏡を使い、地球からの距離が約1400万光年と比較的近いコンパス座銀河の中心付近を約1光年の高解像度で観測。ガスの流れや構造を、分子や原子、プラズマを捉えることによって詳しく調べることに初めて成功した。
その結果、数光年のサイズの円盤状の高密度ガスで、中心の巨大ブラックホールへと落ち込む「降着流」を捉えた。さらに、その仕組みにも迫った。ガス円盤の重力は、圧力で支えきれないほど大きいため、円盤は潰れて安定して運動できなくなる。そこでガスが中心のブラックホールへと落ちていく、「重力不安定」と呼ばれる現象が起きていることを突き止めた。
降着流のガスの量は、このブラックホールなど銀河の中心の活動を支える必要量の30倍にも及ぶが、大半は外へと流れ出てしまい、ブラックホールの成長に寄与していなかった。流れ出たガスの多くは低速のためブラックホールの重力から脱出できず、再び落ち込んで循環していることが分かった。
研究グループの国立天文台の泉拓磨助教(電波天文学)は「巨大ブラックホール研究で、一つの記念碑的な成果となった。成長を包括的に理解するには、より遠くにあるさまざまな巨大ブラックホールを多角的に調べる必要があり、高解像度、高感度の観測が必須だ」としている。
研究グループは国立天文台、鹿児島大学、東京都立大学、東京大学、理化学研究所、東北大学、欧州南天天文台で構成。成果は米科学誌「サイエンス」に3日掲載された。
関連記事 |