独立系研究機関のベルギーimecは11月9日、恒例の年次イベント「imec Technology Forum(ITF)Japan 2023」を開催。それに併せて来日した同社CEOのLuc Van den hove氏が記者会見に登壇し、imecの日本における活動に関する説明を行った。
世界と戦っていける力を持つ日本の半導体エコシステム
同氏は、日本の半導体エコシステムについて、「imecは世界中に600以上の研究パートナーがいるが、そのうち60以上が日本の企業や研究機関だ。その多くが、卓越した技術力を持つ半導体製造装置や材料メーカーである」と現在、半導体のプロセス微細化に向けた研究開発で協業している東京エレクトロン(TEL)やスクリーン、日立ハイテクなど日本の大手半導体製造装置メーカーの名前を挙げ、そのレベルの高さを評価した。また、「イメージセンサの分野ではソニーが世界トップシェアを有しているほか、メモリ分野ではキオクシアが健闘している。日本には優れた大学や研究機関も多いことも含め、素晴らしい半導体のエコシステムがある。決して卑屈(humble)になる必要はない」と、十分に世界と戦っていける力を持っているとする。
Rapidusの2nmプロセス開発を量産の面から支援
また、imecはRapidusと技術提携する契約を結んでいるが、現時点でどのような支援を考えているかについては、「IBMは2nmデバイスの『ベースライン』となる技術を提供することになっているようだ。imecは、ASMLと過去30年以上にわたって露光装置の実用化に関する共同研究を行ってきた実績がある。この強みを生かして、RapidusがEUVリソグラフィ技術を活用してスムーズに量産適用できるように支援していく。Rapidusは、imecの微細化コアプログラムに参画していることもあり、同社の技術者をベルギーのimecキャンパスに受け入れる形で、EUV露光装置を活用したプログラムを提供するほか、RapidusがEUV露光装置を導入する際に、技術者や研究者を派遣してスムーズな導入に向けた技術支援なども行っていく」と実際の量産に即した支援を行っていく考えを明らかにした。
また、それまでのプロセス微細化へ向けた技術の積み重ねを持たず、一足飛びにIBMやimecのような研究機関との協業で2nmデバイスの量産に本当にこぎつけられるのか、という点については、「答えるのが難しい。研究成果を量産技術へ転換するのはチャレンジで時間を要するものだからだ」と、一筋縄ではいかない取り組みであることに理解を示した。
日本での研究所設置場所はまた未決定
さらに、imecが研究所を北海道に設置するとの一部のメディアが報じていることに関して同氏は、「imecは、Rapidusが建設を進めている北海道千歳市の工場が完成したらEUV露光技術の量産適用支援として、技術者や研究者を派遣することにしている。そのため来年以降、同工場の近くに何らかの施設(オフィス)を設置することを考えている」としつつ、「東京には素晴らしい大学や研究機関が集中しているし、大阪大学とは共同研究契約を締結し、同大 産業科学研究所内にすでにimecのオフィスを設置済みである。imecが日本に研究所を設置するにしても、その候補地としては、協業パートナーが多いそうした東京や大阪などが候補になるだろう。ただし、最終的にどこに設置するか決定するのはまだ時期尚早であり、検討を重ねていく必要がある」と答え、北海道はRapidus支援のための拠点であり、研究施設はそれとは別となるとの考えを示した。
imecの関係者によると、imecが日本に設置予定の研究施設では、高齢化社会における課題解決に向け、日本国内で需要が見込める医療・ヘルスケアを中心としたライフサイエンスへの半導体技術の応用や日本が高いシェアを持つ自動車分野の半導体、AI応用に関する研究などを日本企業と密接に連携しながら進める可能性があるという。
複雑な時代における社会課題の解決に求められる協業の必要性
ITF Japan 2023の基調講演において同氏は「A world under pressure needs skyrocketing collaboration(プレッシャーにさらされている世界には、飛躍的なコラボレーションが必要となる)」と題し、「我々は地政学的な緊張、経済の不安定、気候変動などの問題をかかえた複雑な時代を生きている。そうした指数関数的に増大する複雑さを持続可能な方法で解決するためには、さまざまな半導体およびシステムを活用したアプローチが必要になってきている。また、バリューチェーン全体の専門知識を活用して世界中の地域間の協力が鍵となる」とし、さまざまな垣根を超えて、多くの人・企業・機関などが協力していくことの重要性を訴えた。
また、「各国が半導体産業の支援に向けた法整備を進めているが、そうした取り組みが、世界のさまざまな地域を強化することにつながる。そうした各国の取り組みは相互に補完する可能性を秘めたものであり、補完によってイノベーションを加速する機会が提供されることとなる。そうした現代だからこそ、我々は心を1つにして協業に向けた努力すべきである」と、それぞれの地域がそれぞれの抱える課題の解決に力を注ぎつつも、連携を図っていくことの重要性も訴えた。
imecとの連携で日本の強みを伸ばすことを企図する日本政府
このほか、ITF Japan 2023にはimecと提携しているRapidusの小池淳義氏も登壇。「Rapid and unified manufacturing service – a new semiconductor business model to lead the true well-being of humanity(RUMS - 人類の幸福をもたらす新しい半導体モデル)」と題した同社が掲げる短TAT重視の半導体製造戦略を語ったほか、Rapidus以外のパートナーも複数社が登壇した。例えば、三井化学やレゾナックは半導体材料に関する事業戦略の紹介が行われた。また、imecの研究者も登壇しており、そちらは自動車やヘルスケア、医学に対する半導体の応用や、車載ならびにヘルスケア用センサなどに関する研究成果の紹介などを行っていた。
なお、ITF Japan 2023の最後には、特別国会での半導体向け補正予算審議後に会場に駆け付ける形となった経済産業大臣の西村康稔氏が登壇。imecの日本半導体産業の活性化への貢献に対して謝意を述べるとともに、同イベントの盛会を祝した。西村氏は、「半導体産業は、世界的なサプライチェーンに依存しており国際連携の重要性が高まっている」として、政府としてもimecと連携しながら日本企業のグローバルでの活動を支援していくことを語っていた。
同氏は2023年5月1日にimec本社に設置された300mmクリーンルームを視察し、現地で「経済産業省とimecは、最先端半導体のユースケース(利用領域)を、日本の強みである自動車はじめ、ライフサイエンスやAI量子技術などで協力して広げていく」との共同声明を発表しており、今回のITF Japan 2023の構成も、そうした趣旨に色濃く沿ったものとなっていた。