「Arm Tech Symposia 2023 Tokyo」が11月9日、東京・品川にて開催された。今年はアジア地域で4都市7か所での開催となっており、午前中は基調講演3本、午後はテクノロジーセッションが22本という、なかなか充実したものとなった。今回はその中の1つの話題としてWill Abbey氏(Photo01)による基調講演についてご紹介したい。
さて、Abbey氏の基調講演の内容を一言でまとめてしまうと、「CoreからSolutionへ」ということになる。まず最初に紹介されたのが、Armの提供する様々なSolution(Photo02)である。
まずベースとなるのが「Arm Compute Platform(ACP)」で、このACPを核に「Arm Total Compute Solutions(TCS)」や「Neoverse/Corstone」といったIP Solution、それと自動車向けの「SOAFEE」などを現在Armは提供しており、こうしたSolutionで次世代のニーズに応えられるように努めている、というのが最初のメッセージである。
その次世代のニーズとは何か? というと「AI」というのが直近で見えている答えとなる(Photo03)。
そのAIを実現するためのPlatformとして同社は様々なIPを提供している(Photo04)訳だが、このPlatformのうち、ローエンドとかEdgeの先のEndpoint向けにはCorstoneが提供されており、これを利用した製品が既に多数送り出されている。
もう少し高性能なエリア、つまり携帯電話やスマートフォン(スマホ)とそれに類する製品のマーケットだが、2030年にはConnected Deviceが94%に達するとしている(Photo06)。
このマーケットにはTCSが提供されている訳だが、来年にはBlackhawk/Krakeコアを搭載したTCS24がリリースされることが改めて説明された(Photo07)。
ソフトウェアに話を移すと、既に1500万人の開発者をArmエコシステムが集めている事をアピールし(Photo08)、また自動車業界向けのSOAFEEも順調に推移しており(Photo09)、Software Defined Vehicle(SDV)(Photo10)の実現に向けて取り組んでいる事がアピールされた。
次がAIでもTraining向けの話であるが、生成AIのブームでNVIDIAのGPUが非常に売れているのはご存じの通りであり、そのNVIDIAの最新の製品が「GH200 Grace Hopper」(Photo11)となる。
このうちCPUであるGraceの方は72コアのNeoverse V2がベースになっているのは既に広く知られている(Photo11)。このNeoverseは性能優先のVと省電力のE、性能/消費電力比に優れスケーラビリティを確保したNの3種類があるが、第3世代のNeoverseが今年中に発表される事が改めて予告された(Photo12)。
このNeoverseに関しては、CPU IPのみならず周辺までまとめたCompute Subsystem(CSS)が今年8月に発表されている。このCSSを使う事で、顧客は迅速にNeoverseベースのSoCを確実に構築できると説明した(Photo13)。
このCSSをサポートするのが10月に発表されたArm Total Designで、検証済3rd PartyのIPを組み合わせた設計のデザインサービスや製造パートナーとの協業、ファームウェアの提供まで一貫してが提供されるサービスである(Photo14)。
ここまでの説明でもお分かりな様に、既にArmのメッセージはIPの優位性とか特徴とかよりも、如何にそれを容易かつ迅速に設計・検証を行って製品に繋げられるかに力点を置く方向性に変わってきている。敢えて語弊を恐れずに言えば、技術力の無い顧客であってもArmベースのSoCを容易に製造し、その上で稼働するアプリケーションを迅速に移植できるようにするサービスが中核になっている様に感じる。例えばSOAFEEの場合、自動車メーカーとかTier 1 OEMが対象になる訳だが、こうした顧客が必ずしもSoCの構築のノウハウを持っているか、と言えば否であろう。そうした顧客を取り込んでゆく、というのが現在のArmの戦略であることを感じる基調講演だった。
この辺りは、逆に(SoC構築の)技術力のある顧客にその技術的なメリットをアピールするRISC-V陣営との明確な違いでもある。そしてどちらのマーケットの方が大きいか、と言えば技術力を持たない顧客のマーケットの方が大きい訳で、こうしたマーケットを獲りに行くという明確な意思を感じる講演であった。
ちなみに会場には展示ブースもあってパートナーによる展示が行われていたのだが、そこで目を引いたのがASUSの「RS720QN-E11-ES24U」(Photo15)である。2UサイズのラックにGraceを搭載した製品である。ちなみにGraceそのものはNVIDIAからモジュールの形で提供され、ASUSはその周辺回路を構築しているとの事。特定用途向けのNeoverse搭載製品は既に一杯あるほか、汎用としてもNeoverse N1を搭載したAmpere ComputingのAltra/Altra MAXがあるが、Neoverse V2搭載の汎用サーバーとしては世界初かもしれない。ちなみに来年第1四半期に出荷開始予定とのことだった。