村田製作所と帝人フロンティアの共同出資により設立されたピエクレックスは、「“でんき(電気)のせんい(繊維)”で世界を変える」をコンセプトに、力が加わることで電気エネルギーを生み出し抗菌効果を発揮する圧電繊維「PIECLEX(ピエクレックス)」を開発し、アパレルメーカーへの素材提供や、企業などに向けTシャツやタオル、ソックスなどの企画を行うなど、繊維製品の製造・販売を行っている。

また、“PIECLEX”を使用した繊維製品を回収して土に還し農業や林業などに利活用していく循環サイクル「P-FACTS」を確立させ、真のサステナブルファッションを実現するべく活動を行っている。

今回はこの“PIECLEX”という繊維や真のサステナブルファッション実現に向けた“P-FACTS”の取り組みについてピエクレックスの担当者に話を伺った。

電気の繊維「PIECLEX(ピエクレックス)」とは?

ピエクレックスとは、トウモロコシやサトウキビなどの植物由来のポリ乳酸を原料としている化学繊維で、アパレル商品によく使用されているポリエステルやナイロンをはじめとする石油由来の化学繊維に比べてCO2の総排出量が少ない利点があり、製造から処分までのCO2排出量もポリエステル素材のものと比較すると約20%~30%ほど少ないことが分かっているという。

  • 自然循環するピエクレックスのイメージ

    自然循環するピエクレックスのイメージ(出所:ピエクレックス)

また、ピエクレックスは微生物によって分解される生分解性も有しているため、不要になったピエクレックス繊維を使った製品を最終的には回収して、それを農業や林業の堆肥として利用する循環インフラを構築できる。この特性を活かして「P-FACTS」の取り組みは進められており、製品を作る際は「堆肥化可能な素材かどうか」を意識しているとする。

近年、不要になった衣服をリサイクルやリユースする取り組みが進められているが、海外に輸送する際や他のものに変えていく過程においてCO2が発生するという課題があるが、P-FACTでは土に還して新たな植物の育成につなげることでそうしたCO2排出も抑えることができるようになりカーボンニュートラルの貢献につながると担当者は語る。

また、ピエクレックスは微弱な電気の力を活用することで薬剤不使用で抗菌機能を発揮するという特徴も有している。抗菌効果がある衣類は、細菌類の繁殖を抑え、汗や生乾き臭などの嫌な臭いも抑える嬉しい効果があるが、生活の中でよく目にする抗菌効果がある衣類は、抗菌剤などの薬剤が表面に塗られていることが多く、洗濯する度に落ちていきいずれ抗菌効果がなくなっていく。しかし、同繊維は薬剤の塗布ではなく電気的な特性を利用して抗菌効果を発揮するため、繰り返し洗濯しても抗菌効果が落ちるわけではないため長く使えるメリットがあるという。

  • 電気的特性による抗菌作用

    繊維が動くことによって得られる電気的特性により抗菌作用が発揮される(出所:ピエクレックス)

サステナブルファッション循環サイクル「P-FACTS」

「P-FACTS」は、ピエクレックスをはじめとする堆肥化可能な天然資源由来繊維を使用したアパレル商品を賛同するアパレルブランドなどに販売するほか、企業や大学向けにユニフォームなどを製作し販売。消費者のもとに渡り、不要となったアパレル商品を自治体などと連携しながら回収し、堆肥化した後、農作物の土などに活用していく仕組みだ。P-FACTS対応製品には認証を示す「P-FACTSマーク」が付与され、「堆肥となり植物になるまでを実現できる」製品であることの印とする。

  • 「P-FACTS」の流れのイメージ図

    「P-FACTS」の流れのイメージ図(出所:ピエクレックス)

「大学の学園祭で全員が一緒のデザインのユニフォームを着たり、企業のイベントでおそろいのタオルを持ったりTシャツを着る機会があると思いますが、イベントが終わってからはあまり身に着ける機会がないのではないだろうかと感じます。こうした製品は大量に作られることが多いので、ただ捨てるのではなく有効的に活用できれば環境にも良いですし、堆肥化された土で美味しい農作物ができたら私たちも嬉しいですよね」と担当者は語る。

すでに、立命館大学やブリヂストンといった大学や企業のほか、守山市や長岡京市といった地方自治体などでも導入されるなど、徐々にだが「P-FACTS」の輪は広がりつつあるという。

  • 「P-FACTS」賛同企業や団体の一部

    「P-FACTS」賛同企業や団体の一部(出所:ピエクレックス)

実際に繊維を堆肥化させるには、それに適した微生物が存在し、かつそれが活発に活動している必要があるが、鴨志田農園の監修のもと1から環境を整えて、土に還すことができるスペースを確保する取り組みを進めてきたとする。

真のサステナブルファッション確立に向けて

アパレルの廃棄に伴って生じるCO2排出は以前から問題視されてきたこともあり、多くの企業がさまざまな取り組みを行うようになっているものの、「各企業が取り組みを行っても、回収、リサイクル、リサイクル製品の販売と、それぞれ別の企業が担っており、つながりが途切れていた」と、従来の循環の形は連携が思うようにとれていないという課題があると同社の担当者は指摘する。

また、「環境問題に対して同じ意識をもった企業が柔軟に連携することができ、一通りの循環サイクルをまとめるプラットフォームをピエクレックスで作りたい」ともしており、そうした取り組みを通して企業同士がつながりを作っていくことで、新たなイノベーションを起こしてもらうことも環境負荷の低減につながる良い取り組みになることが期待されると語っていた 。

さらに、環境問題を自分ごととして感じてもらうにはまずは簡単かつ身近であることを感じてもらうことが必要だとし、こうした活動をより多くの人に知ってもらいたいとの思いも語ってくれた。ピエクレックスを扱った服などの生産数を増やすことができれば、コストも下げることにもつながり、それによりさらに多くの人の耳目を集めることがができるだろうともしており、そうした取り組みを通じて、多くの人たちを知らず知らずのうちに巻き込んで、みんなで環境問題に取り組む社会にしていきたいとしている。

なお、今後の流れとしては、「地着・地消・地循」という小さな循環を日本各地で展開できるよう、まずは2024年10月ごろに向けて現在進めている実証内容をさらに拡大していき、2025年4月までに、こうしたサステナブルファッションの取り組みを日本から世界に発信できるよう動いていきたいとする。販売商品のラインナップについても現在はアパレル商品が多いが、まくらやシーツなどの寝具類、カーテンや絨毯などのインテリア関連商品も開発・販売していきたいと担当者は語っていた。