新潟医療福祉大学は11月7日、高校ラグビー選手の体格および筋力、パフォーマンス指標の発達過程とポジションの特性を3年間の縦断研究によって解明し、高校ラグビー選手のポジション特性を考える上では除脂肪量を考慮した上肢および下肢筋力の評価が重要であることや、日本の高校ラグビー選手は世界トップクラスの国の同世代の選手よりも下肢筋力やスプリント能力が劣っていることが明らかとなったことを発表した。
同成果は、新潟医療福祉大 健康スポーツ学科の熊崎昌講師、同・藤本知臣講師らの研究チームによるもの。詳細は、スポーツ生理学とパフォーマンスに関する全般を扱う学術誌「International Journal of Sports Physiology and Performance」に掲載された。
ラグビーは、タックルやスクラムに代表される激しいコンタクトを特徴とする、体格(身長や体重、除脂肪量)が競技パフォーマンスに大きな影響を与える球技だ。実際、ラグビー世界ランキング上位国と下位国の選手の間には、体格差が存在することが報告されている。近年、日本はワールドカップでも活躍するようになってきたが、世界ランキング上位国であるヨーロッパ・オセアニア諸国と比べると体格的に劣っていることは、テレビなどでの試合中継映像からも見て取れる。そのため日本ラグビーの発展に向けては、ジュニア世代の長期的な育成計画が重要とされている。
ラグビーは1チーム15人制で、選手のポジションは大きくフォワードとバックスに分けられ、さらにそれぞれに5種類ずつのポジションがあり、それぞれ役割が異なる。そのため、たとえばスクラムで中核を成すフォワードの中でも最前列のプロップやフッカーには身長や体重が求められるのに対し、トライを決めることが求められるバックスの中でも後方のウィングでは走力が求められるなど、必要とされる項目が異なってくる。
しかしラグビーに関するこれまでの研究では、選手のパフォーマンス指標として、ベンチプレスやスクワットの最大挙上重量などの絶対値、体重などで規格化して示されたものが多かったとのこと。つまり従来研究では、ポジションによって大きく異なる体組成を考慮できていなかった可能性があるという。
そこで研究チームは今回、日本の高校ラグビー選手を対象として、高校3年間の体組成および筋力測定を実施し、体組成の違いを考慮した指標によって、日本の高校ラグビー選手の発育発達過程やポジションによる特性を検証したとする。
今回の研究では、北信越地域に所属する高校ラグビー選手83名を対象とし、高校入学から卒業までの3年間を通して定期的な体力測定が実施された。測定項目は、体格指標として身長、体重、脂肪量、除脂肪量が計測された。また筋力指標としては、ベンチプレスや握力、懸垂、等速性膝関節屈曲伸展筋力、50mスプリントタイム(10m、20mタイム)やアジリティ(敏捷性)テスト、ジャンプを測定したとのことだ。
その結果、体重や体脂肪量、除脂肪量の増加にはポジションによる差があることが、数値として明確になったとする。一方、上肢筋力について、これまで一般的に用いられてきた体重に対する相対値ではポジションによる差が見られたが、除脂肪量に対する相対値ではポジションによる差が見られなかったとした。さらに、下肢筋力やスプリント能力においては学年の推移による発達は見られず、この点はラグビー強豪国のジュニア選手の発育発達とは異なっていたという。
今回の研究から、日本の高校生ラグビー選手の発育過程が解明され、ラグビー選手のパフォーマンス評価指標として除脂肪量との相対値を用いた筋力評価の重要性が示された。さらに、日本のラグビー界を強化するための長期的なアスリート育成を考えていく上で、体重のみならず、除脂肪量を意識した体格の改善や、下肢筋力およびスプリント能力の強化が必要になる可能性が明らかになったとする。研究チームによれば、この下肢筋力やスプリント能力は、世界トップクラスの国の同世代のラグビー選手と比較すると、日本の選手たちが劣っているということであり、今回の研究成果がラグビーにおける長期的な育成計画へ応用されることが期待されるとしている。