東京慈恵会医科大学(慈恵医大)、横浜市立大学(横市大)、米国国立がん研究所の3者は11月6日、「光免疫抗体」を用いることで、生物種や薬剤耐性に関係なくさまざまな標的を選んで破壊、除去できる「光免疫治療」戦略の基準となる手法を確立したことを発表した。
同成果は、慈恵医大 総合医科学研究センターの岩瀬忠行教授、同・大学 消化器・肝臓内科の光永眞人講師、同・伊藤公博助教、同・西村尚助教、横市大の梁明秀 連携大学院客員教授(研究当時:医学部微生物学 教授)、同・宮川敬 客員准教授(研究当時:同微生物学 准教授)、米国国立がん研究所の小林久隆主任研究員らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のプロトコルに関する全般を扱う学術誌「Nature Protocols」に掲載された。
現在の抗がん剤は、がん細胞を排除できる一方で、患部までに送り届けられる間にある正常な細胞をも傷害してしまい、患者に副作用が及んでしまうという短所を抱えている。そこで、近年はがん細胞に特異的な治療法の研究開発が進められており、今後もより多くの選択肢を増やし、効果的でかつ身体に優しい抗がん療法が開発されることが期待されている。
そうした中で、がん細胞のみを選択的に排除でき、副作用が出にくい治療法の1つとなりえるとして期待されているのが、光免疫療法だ。同療法では、標的に対し「光免疫抗体」を結合させた後に、近赤外光を当てることで抗体が活性化して構造変化が生じることで、標的を破壊するという仕組みだ。
また、細菌・真菌(カビ)・ウイルスなどの病原体は、肉眼では見えないという点では共通しているが、三者三様であり、それぞれに対する薬剤(抗菌剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤)を開発する必要がある。しかも近年は、10年以上の歳月と多大な費用をかけて開発された薬剤であっても、薬剤耐性株の出現により効力を失ってしまうことが大きな問題となっている。
そうした状況に対しても光免疫療法は有効で、がん細胞以外にも標的を自由に設定することが可能だ。さらに、抗菌剤は病原細菌だけでなく、いわゆる善玉菌として知られる常在細菌にも作用してしまうため、腸内細菌のバランスを乱してしまうことも問題となっているが、光免疫療法は、標的を選択的に除去できるので常在細菌への悪影響の心配がない。つまり、正常細胞にも善玉菌にも作用することなく、がん細胞や病原菌だけを狙い撃てるのである。
研究チームは今回、標的に特異的に結合する「モノクローナル抗体」と、近赤外光に反応して構造を変化させる「光反応性プローブ」が結合した光免疫抗体を用いることにより、多種多様な細胞や微生物を光免疫療法の対象とする手法を確立することにしたという。
そして開発された同手法を用いて、再発性頭頸部がんの新規治療法として、世界に先駆けて国内で臨床に適用されるに至ったとする。また細菌やウイルスに関しては、新型コロナウイルスの細胞への感染防止や、常在細菌に影響を与えずに多剤耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を除去できる作用などが示されたとした。
研究チームは今後、既存の治療法では制御が困難だったがんや多剤耐性・新興病原体などに対する新たな治療法への展開、また試料中の特定の細胞や病原体のみを除去するバイオツールとしての活用などが期待されるとしている。