環境に配慮した材料だけを使った土壌含水率のセンサーを開発したと、大阪大学の研究グループが発表した。環境配慮材料の使用は従来、基板や素子などの部品にとどまっており、センサー丸ごとは、測定する指標を問わず初めてという。微生物によって大部分が分解され、残る物質も環境に悪影響を与えにくいため回収が不要。土壌の水分量に応じてセンサーの温度が変わり、これをカメラで捉えて推定する仕組みだ。

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    開発した土壌含水率センサーと構造(大阪大学提供)

温度や湿度、土壌含水率、光などを計る多彩なセンサーが、気象観測や農業、防災などに活用されている。一般には多く設置するほど情報が増えるが、特に屋外だと環境への影響や、使用後の回収の手間がネックだ。従来品は植物に有害となりやすい銅や、分解されない石油由来のプラスチックを多用している。近年は生分解性プラスチックや、植物繊維、タンパク質など生物由来の材料を使った基板や素子も開発されているが、安定性や性能に難点があることが多いという。

そこで研究グループは、独自に土壌含水率のセンサーを開発した。無線給電のためのスズ製の受信コイルに、熱を蓄積するカーボン製のヒーターを組み合わせた。これを木材由来の繊維で作られた紙の基板で挟み、さらに天然のワックスでコーティングを施した。大きさは1辺約7センチ、厚さ1ミリ弱で、重さは約2.6グラム。

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    土壌含水率センサーの利用の概念図(大阪大学提供)

設置した場所が乾いているほど、センサーのヒーターが熱くなり、これを農地を俯瞰(ふかん)するように設置したカメラが捉える。センサーへの無線給電は「磁界共振結合方式」。送信側である地下などの給電装置と、受信側であるセンサーの双方にコイルがあり、両者の特性による周波数が一致すると高い効率で給電し、センサーの温度が上がる仕組み。逆に土壌含水率が上がると土壌の誘電率が変わり、受信側コイルの周波数の特性も変わって給電効率が下がり、センサーの温度が下がる。

紙の基板や天然ワックスは微生物に分解される。スズは銅や銀とは異なり、土壌に残っても植物に害を与えにくい。センサーを使った後の回収が不要で、ばらまくように高密度に設置できる。

センサーを屋内で土壌に置いて実験したところ、センサーのある位置の土壌含水率が推定できた。また、日を追ってセンサーの分解が進む様子を確認した。実際の農地では、作物が育つまでセンサーが機能する必要がある。今回の実験では何日目まで機能するかは調べなかったが、条件により、またコーティングを厚くするなどの工夫次第で、寿命は延びるという。センサーに肥料を配合する応用も期待できる。

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    複数のセンサーを土壌に置いた実験。水が不足する位置ではセンサーの温度が上がった(大阪大学提供)

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    センサーは土壌で、日を追うごとに分解されていった(大阪大学提供)

研究グループの大阪大学産業科学研究所の春日貴章助教(ナノ材料工学)は「分解性のデバイスはまだ発展途上。今回の成果もコンセプト実証の段階で、実用化には課題が多い。このセンサーの設計や仕組みは、土壌含水率以外にもさまざまセンサーとして応用できる。“土に還(かえ)る”センサーの実用性向上に向け研究を続けたい」としている。

成果は米国の持続可能性に関する専門誌「アドバンスト・サステナブル・システムズ」に10月17日に公開された。研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業、松籟(しょうらい)科学技術振興財団研究助成金、日本学術振興会科学研究費助成事業の支援を受けた。

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