ドクタージャパンと国立国際医療研究センター(NCGM)は11月1日、吸引管を手で持たずに吸引できる「ハンズフリー吸引チップ」を共同で開発したことを発表した。
形成外科のマイクロサージャリーにおいて血管やリンパ管を吻合する際、術者は顕微鏡を観ながら左にピンセットを、右手に縫合針を持って作業を行う。しかし術中に吸引が必要になった場合には、顕微鏡から目を離し、手に持つピンセットや縫合針から吸引管へと持ち替えて吸引操作を行う必要があった。そのため、顕微鏡から目を逸らすことによる集中力の低下や器具持ち替えの手間が課題となっていたという。また手術の内容によっては、吸引管を持つ専用の医師がいる場合もあり、非効率である点も懸念されていた。
他方、厚生労働省では「医師の働き方改革」の施行を予定するなど、過酷な労働環境が喫緊の課題となっている医師の勤務体系の見直しが必要となっている。その実現に向けては、手術時間の短縮や効率的な手術を実現するための新たな吸引管の開発が必要だったとする。
今回発表されたハンズフリー吸引チップは、2019年9月に東京都医工連携HUB機構とNCGMが合同開催した臨床ニーズマッチング会にて、NCGM病院 形成外科の十九浦礼子医師から報告された内容を受けて開発されたものだという。
また、切開創を開創しながら吸引を行う開創器式チップと、切開創に落とし込み吸引を行うドロップ式チップの2種類を開発したとのことで、症例によってそれぞれ選択するといい、手術室の吸引機に接続している吸引チューブに、柔軟性のあるシリコーンチューブを介して接続し吸引を行うものだとしている。
開発チームによると、開創器式チップは、リンパ管吻合術などに使用するもので、3本のフックがあることが特徴。このフックを切開創に入れて開創し固定することで、ハンズフリーを実現する。また吸引を行うパイプについては、詰まり対策として先端にはスリット加工を、側面には複数の孔加工を行っているとする。
一方のドロップ式チップについては、皮弁移植など形成外科での一般的な手術に使用するもので、切開創にチップを落とし込み吸引を行うことでハンズフリーが実現される。またこちらも詰まり対策として、先端と側面に同様の加工を行っているとのことだ。
今回の開発では、約4年間にわたって多くの議論や試作・改良を重ねたとしており、2023年8月に薬事届の提出を完了したのち、その後の許認可を踏まえて手術での使用を開始したという。そして今後は、NCGMにて実際に手術で使用することで症例の蓄積および有効性の確認を行うほか、他診療科への応用も進めていく予定だとする。
開発チームはハンズフリー吸引チップについて、外科手術において吸引管を手で持つことなく吸引操作ができる事から、手術時間の短縮などを通じて医師の働き方改革実現に貢献できる可能性を見込んでいるとしている。