ソフトバンクの新型株「社債型種類株」が11月2日、東証プライム市場に上場した。社債型種類株の上場は国内では初めて。同日、東京証券取引場にて上場セレモニーが実施された。

  • ソフトバンク「第1回社債型種類株」上場セレモニーの様子(2日、東京都中央区)

    ソフトバンク「第1回社債型種類株」上場セレモニーの様子(2日、東京都中央区)

ソフトバンクが発行する社債型種類株は、議決権と普通株式への転換権がない。議決権の希薄化が生じない「社債」と自己資本が拡充する「株式」の両面の顔を持つ。当初設定された優先配当金以上の配当が行われない「非参加型」の種類株式であり、優先配当金以上の配当に対する参加権は普通株主のみが有する。株主は議決権は希薄化することなく健全な財務基盤を確保するための自己資本の拡充を実現できると同社は考えている。

第1回の発行総額は1200億円で発行価格は1株4000円。売買単位は100株。2029年3月末までは年率2.5%固定配当(その後は変動配当)で、発行後5年を経過すると、発行価格に経過配当金などの調整を加えた金額でソフトバンクが買い戻す権利が生じる。引受証券会社は野村證券で、少額投資非課税制度(NISA)の対象となり個人投資家を増やすことも狙いの一つだ。

第2回以降の具体的な発行時期や内容については、今後の資金需要や市場の動向などを総合的に勘案して決定していく考え。

調達した資金は通信・IT技術の高度化や次世代社会インフラに関連した成長投資に充てる。同社は次世代社会インフラの構築に向け、生成AI(人工知能)を用いたサービスの実現を目指している。10月31日には日本語に特化した国産の大規模言語モデル(LLM)の開発を本格的に開始すると発表した。子会社のSB Intuitionsを通じて生成AI開発向けの計算基盤を活用し開発を進める。

  • 米エヌビディアのAIスパコンなどをベースとした生成AI計算基盤の設備

    米エヌビディアのAIスパコンなどをベースとした生成AI計算基盤の設備

計算基盤には総額200億円を投じた米エヌビディアの「NVIDIA Tensor コア GPU」を2000基以上搭載したAIスーパーコンピューターなどを活用する。そのほか、AIのデータ処理や電力消費などを地理的に分散化・平準化できる「分散型AIデータセンター」、その分散型AIデータセンターを仮想的に一つのシステムであるかのように見なす「超分散コンピューティング基盤(xIPF: cross Integrated PlatForm)」の開発も進めていく。また、高速通信規格「5G」関連の設備投資や再生可能エネルギーの開発・調達などへの投資も加速させる。

同社は、次世代社会インフラに関連した成長投資を行いながら、成長投資と高水準の株主還元との両立を継続していくために、負債性のみならず資本性の資金調達を組み合わせて資本の充実と財務基盤の強化を図っていく考えだ。

上場セレモニーでソフトバンク 代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮川潤一氏は、「日本で初めての上場を大変名誉に感じる。われわれが良い事例となれるように邁進していきたい」と笑顔を見せた。また、個人投資家の申込比率が9割を超えている状況に対して「正直言ってとても驚いている。非常にありがたい話で本当に心強い」とコメント。

  • ソフトバンク 代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮川潤一氏

    ソフトバンク 代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮川潤一氏

日本電信電話(NTT)は11月1日、NTT版の独自のLLMである「tsuzumi(つづみ)」を商用サービスとして2024年3月から提供開始することを発表した。米OpenAIのLLM「GPT-3」の約300分の1という少ないパラメーター数(6億パラメーター)で言語学習データの質と量を向上している点が特徴だ。

一方のソフトバンクは、2024年内に3500億パラメーターの国産LLMの構築を目指している。このことに対し宮川氏は「パラメーター数の大小で性能のすべてが決まるわけではないが、世界で戦うためにパラメーター数はしっかりと作りあげていく。世界に目を向けると『GPT-5』の議論がすでに始まっている。『世界にはあるのに日本にはない』という状況は避けたい」との考えを示した。

ソフトバンクの新型株はどのような恩恵をもたらすのか。今後の動きに注目したい。

  • ソフトバンク「第1回社債型種類株」上場セレモニーで打鐘する宮川社長(2日、東京都中央区)

    ソフトバンク「第1回社債型種類株」上場セレモニーで打鐘する宮川社長(2日、東京都中央区)