企業や団体でChatGPTの導入が進んでいる。ChatGPTを活用したサービスのリリースも増加傾向にある。そんなサービスの1つに、公務員専用のChatGPTがあることをご存じだろうか。普段、一般の人が触れることのない公務員専用ChatGPTはどのような考えの下でリリースされ、どう展開していくことを考えているのか。同サービスを開発した東武トップツアーズ ソーシャルイノベーション推進部 DX推進室 CDOでデジタル田園都市国家構想応援団 事務局の村井宗明氏にお話を伺った。
誤情報を出さず、著作権にも抵触しない公務員専用ChatGPT
2023年5月にリリースされた公務員専用ChatGPT「マサルくん」。これはChatGPTに行政文書のデータを約8000ページ分、追加学習させたものだ。開発の背景として、村井氏は「行政ならではの課題を解決する必要があった」と語る。その1つは、決して間違えられないこと、つまり誤情報を出してはならず、高い正確性が求められる点だ。ChatGPTの場合、Web上にあるさまざまな情報を学んでいるため、出力される回答にはデマや誤情報が混ざっている可能性がある。しかし、それでは情報の正確性を担保できない。そこで村井氏は「特定の分野にだけ詳しい専門性を持つChatGPTをつくれば、間違いを減らすことができるのではないか」という仮説を立てたそうだ。そこで首相官邸発行の「骨太の方針2023」や内閣官房発行の「デジタル田園都市国家構想基本方針」、内閣府発行の「防災白書」といった行政発行の文書データなどを読み込ませた「専門特化型」ChatGPTの開発に着手した。
マサルくんという名前には、この開発の当初の目標が表れている。それは「人間の公務員に“勝る”AI公務員をつくろう」というものだったと村井氏は振り返る。しかしいくつかの自治体関係者にこの構想を説明し、ヒアリングを行ったところ、「人間に勝ることはない。人が過去につくったデータを真似るのだから、“マネル”くんではないか」と言われたという。仮に、AGI(Artificial General Intelligence)と呼ばれる汎用性人工知能であれば、さまざまな事柄に対し人間のように考え、答えを出すため、人間に“勝る”可能性がある。しかし、村井氏らは正確性の担保を重視し、「エンベディング型」、つまり専門性のあるデータを埋め込むことを選択した。
「業務を効率化し、正確性を高めるという点を重視しています。(AGIでは可能な)独創性の部分は、業務効率化で生まれる時間を使って、自分で考えていただければと思っています」(村井氏)
この選択には、もう1つの行政ならではの課題も関係している。それは、著作権の問題だ。もちろん一般企業が著作権を軽視して良いわけではないが、個人レベルのブレストではあまり問題にはならない。しかし、行政で利用する場合は著作権にも常に細心の注意を払うことが求められる。その点でも、すでに作成されている行政データを基にしたマサルくんであれば、安全というわけだ。