名古屋工業大学(名工大)は10月30日、乳酸の結合で蛍光強度を大きく上昇させる蛍光センサタンパク質「eLACCO1.1」を、分子量依存的な分子浸透性を持つ電界不織布のナノ繊維内部に固定化することで、乳酸に対する「発蛍光型の蛍光センサ不織布」の開発に成功したことを発表した。
同成果は、名工大大学院 工学研究科の加藤柚奈大学院生、同・水野稔久准教授、東京大学の那須雄介助教、同・Robert E. Campbell教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会が刊行する化学全般を扱う学術誌「RSC Advances」に掲載された。
乳酸も含めた生体サンプル(尿、汗、血液など)中に含まれるさまざまな代謝物やイオンの濃度変化をもとに、非侵襲的に体調や疾病などを診断する新たな技術が強く求められている。ただし生体サンプルには、一般的に多種多様なイオンや生体分子が含まれているため、その中から効率的に特定の分子を定量評価するための高い分子識別技術が必要となる。その実現には、タンパク質の持つ高い分子識別能を活用したタンパク質ベースのセンサ分子の利用が合理的だというが、タンパク質ベースであるが故に、耐久性の低さ、外部環境変化に対する脆さといった短所もあり、そうしたセンサ材料の開発はあまり進んでいないとする。
不織布とは、繊維の集積化により作製される布状の材料で、電界紡糸法を利用することで、均一なナノオーダーの繊維径からなるナノ繊維の集積体である電界不織布の作製が可能となる。そうした中、その電界不織布に用いる高分子材料に着目し、これまでにタンパク質を変性失活させることなく不織布ナノ繊維内部に固定化することを可能とする、特殊な高分子材料を開発してきたのが研究チームだ。
さらに、ここで用いられる高分子材料が分子量依存的な分子浸透性を持つことで、酵素を固定化した場合には、繊維内部に固定化したまま、浸漬溶液に含まれる基質分子に対して高い酵素活性を発揮することも可能だったとする。そこで今回の研究では、そのナノ繊維内部を、蛍光センサタンパク質を働かせる場として利用する検討を行ったという。
電界不織布作製に利用可能な新たな高分子材料として、生体毒性の低い高分子バイオマテリアルとして知られる「ポリ(2-ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)」をベースとした高分子材料「poly(HPMA/DAMA)」が開発された。そこに、乳酸の結合により蛍光強度を大きく上昇させる蛍光センサタンパク質としてeLACCO1.1を添加して電界紡糸を行うことで、乳酸センサ不織布の作製を行ったとのこと。なお不織布への材料強度付与のため、ナノ繊維表面はNylon6でナノ被覆したものが用いられた。
作製された乳酸センサ不織布は、乳酸濃度の上昇・下降に応じた可逆的な蛍光強度変化を示し、その強度変化は高い再現性が示されたという。またこの応答性は、プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)の処理後でもまったく影響を受けないことも判明。そして、不織布繊維の持つ分子量依存的な分子浸透性の効果により、eLACCO1.1がプロテアーゼ分解から保護されつつ、乳酸に対する特異的なセンサ機能は維持可能となることが明らかにされた。なおこの性質は、体調や疾病のバイオマーカーとして注目される乳酸の濃度を、さまざまな夾雑物を含む生体サンプルから簡便に定量評価可能な要素技術として、非常に魅力的な要素を兼ね備えているとする。
今回開発された電界不織布は、さまざまな夾雑物を含む生体サンプルにさまざまなセンサ蛍光タンパク質を直接作用させることが可能な場として、有効に機能することが期待されるとのこと。つまり、タンパク質であるが故に生じる耐久性の低さや外部環境変化に対する脆さを、固定化する材料側の分子設計により補うことで、高度な分子識別能を持つタンパク質センサを活かした、より実用的なセンサ材料開発の進展につながるとい、たとえば、手首や腕、体表面に装着するウェアラブル型、体内部に設置し利用するインプラントラボ型の医療用センサデバイスへの利用も期待されるとしている。