ミネラルを多く含む硬水を噴霧するとカルシウムイオンが減って軟水に近づくことを、岐阜大学教育学部の久保和弘教授(栄養学)と水回り部品を製造する企業TKS(本社岐阜市)のグループが明らかにした。今後数年、硬水を産出する地域が広がる北米の展示会に、霧をつくるノズルのプロトタイプを出品するなどして需要がどこまであるかを探り、実用化の可否を判断したい考えという。
日本の水はほとんどが軟水だが、欧米やアジアでは硬水が多い。洗剤・石けんの泡立ちが悪い、配管内に無機質の垢(あか)がたまって詰まりやすくなる、過剰摂取すると健康リスクが高まるといった不都合がある。このため硬水地域では、アルカリ剤を投入したり膜で濾過したりして軟水に近づけることがある。
久保教授らは以前から、ノズルから噴霧する水に含まれる微細な泡について研究しており、硬水で実験すると白い析出物ができることに気がついた。硬水を加熱して(エネルギーを加えて)沸騰させると、炭酸カルシウムが析出する。一方、微細な泡は壊れる時に局所的に高いエネルギーを生み出す。水を噴霧化処理してできる微細な泡が壊れる時に、沸騰と似た状態が生じているかもしれない、と久保教授は考えた。
実験では炭酸カルシウムが溶けた合成硬水200ミリリットルをビーカーに入れて用意。チューブで硬水を吸引し、ポンプで約10気圧の圧力をかけてノズルから噴霧し、ビーカー内に再び集めた。噴霧時間は47秒から2時間までとした。
硬度の違う3種類の水について、噴霧時間に応じた水中のカルシウムイオン量を測定すると、硬度が高いほど噴霧時間に応じてカルシウムイオン量が減っていた。噴霧時間に応じた伝導度の低下や水素イオン濃度指数(pH)の上昇も確認され、カルシウムイオンが炭酸カルシウムとなって析出したことが分かった。
硬水中から炭酸カルシウムが析出する仕組みについて、久保教授は「噴霧化処理直後に起こる急峻な変化とその後の緩やかな変化の2つが生じていると考えられる」と語る。
処理直後の変化は、急激な減圧によって水に溶けていた二酸化炭素が空中に放出されるとともに、沸騰と似た「キャビテーション」を起こす細かい泡が増える。細かい泡が増えると硬水を加熱したように、二酸化炭素の放出と炭酸カルシウムの析出が起きるという考えだ。
その後、析出した炭酸カルシウム自体が核となって結晶が時間をかけて成長していくと考えられるという。久保教授は今後、噴霧による硬水の軟化の実用化を目指すとともに、軟化の詳細な仕組みを研究したいとしている。
2018年12月に欧州連合(EU)加盟国が公表したガイドラインでは、健康リスク低減の観点から推奨される水の硬度をカルシウムイオン量に換算して1リットル中40~80ミリグラムとしている。研究グループは今回開発した技術で、硬水をこの推奨範囲に軟化できるとみている。
研究は7月、日本食品科学工学会の国際誌の電子版に早期公開された。11月20日に本公開される。
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