名城大学と三重大学の両者は10月30日、同月17日に開発に成功したことを発表した、高光出力の深紫外LEDや深紫外半導体レーザーを実現するために不可欠である「縦型AlGaN系深紫外半導体レーザー」に関連して、半導体プロセスに導入しやすい加熱・加圧した水で基板剥離する技術を開発したこと、そしてその基板剥離メカニズムを解明したことを共同で発表した。
同成果は、名城大 理工学部 材料機能工学科の岩谷素顕教授、同・竹内哲也教授、同・上山智教授、同・理工学部 応用化学科の丸山隆浩教授、三重大大学院 工学研究科の三宅秀人教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本応用物理学会誌の姉妹紙の応用物理学を扱う学術誌「Applied Physics Express」に掲載された。
半導体発光素子の光出力は、電子から光子に変換され、半導体外部に取り出される効率(量子効率)と注入電流に依存する。現在の半導体発光素子の光出力は1つのチップで最大数百ミリワットに制限されており、それをどのように増強するかが重要な課題となっている。電流注入を増加させるには、デバイスのサイズを拡大する必要があった。
紫外線は、波長315~380nmのUV-A、波長280~315nmのUV-B、波長100~280nmのUV-Cの3種類があり、また波長300nm以下のものは深紫外線と呼ばれる。アルミニウム、ガリウム、窒素で構成される化合物AlGaNは、高品質な単結晶を得ることにより波長210nm~365nmの紫外線を放射することが可能だ。AlGaNは、深紫外線も放射できることから、バイオテクノロジー、皮膚病治療などの医療用途や、UV硬化プロセス、レーザー加工など工業分野への応用が期待されている。
現在のAlGaN系紫外半導体レーザーは、高品質の結晶を確保するためにサファイアや窒化アルミニウム(AlN)などの絶縁材料が使用されており、またデバイス内で薄膜のn型AlGaNを横方向に電流が流れる横型デバイスが用いられている。このようなデバイスでは、電流を均一に流すことが難しく、その結果、大型化しても注入電流を増加させることが難しい点が課題となっていた。
この課題を解決するため、研究チームにウシオ電機を加えた3者による共同研究で採用されたのが、pn接合に対してp電極とn電極を対向配置した縦型デバイスだ。それにより、UV-B領域の波長298.1nmの縦型AlGaN系深紫外半導体レーザーの開発に成功したのである。しかし、より大口径かつ簡便な手法の確立が求められていたという。
AlGaN系深紫外LED/半導体レーザーの開発における主要な課題は、絶縁性基板からデバイスを剥離する技術が不確立である点だとする。同じ材料系のGaNに対しては広く使用されているレーザーリフトオフ法があるが、AlGaN系ではレーザーにより析出したアルミニウムの融点が高いため、安定な剥離が難しいという問題があり、新しい剥離方法の開発が求められていた。
研究チームが開発したのが、AlNをナノインプリント法により規則的に配置したパターンマスクを形成し、それをプラズマエッチングして周期的に配置された「AlNナノピラー」を生成し、それの上でAlGaNを成長させるという技術だ。今回は、そのAlNナノピラーを用いたAlGaNやAlNを加圧・加熱した水を使用してエッチングし、安定した剥離を試みることにしたという。
そして、1.5気圧・135℃に加圧・加熱した水を用いた結果、安定した剥離が可能であることが示されたとした。走査電子顕微鏡を用いた解析が行われたところ、デバイスのサイドに相当するm面やa面のAlNやAlGaNは加圧・加熱した水によりエッチングされていたという。
一方、デバイス表面に相当する+c面に関しては、走査電子顕微鏡ではまったく反応が確認されなかったとした。さらに、試料表面の化学的な反応を原子レベルで解析可能なX線光電子分光法による詳細な分析の結果、+c面は加圧・加熱した水には反応しないことが解明されたとする。つまり、デバイスの表面から水が結晶にほとんど影響を与えないにも関わらず、サファイア基板を剥離することが可能であることが明らかになったのである。
さらに、同手法は半導体プロセスで一般的に使用される水による洗浄を利用しており、プロセス温度は通常の半導体プロセスよりも低温(約135℃)で行えるため、高い汎用性があることも確認されたとした。
今回の研究の基板剥離技術により、集積化で数十~数百ワットという高出力も可能な深紫外LED/半導体レーザーの実現につながるだけではなく、パワーデバイスやそのほかの技術への拡張も期待されるとしている。