10月28日から11月5日まで東京ビッグサイトでは、「Japan Mobility Show 2023」が開催されている。かつての「東京モーターショー」からリニューアルし、その裾野を“モビリティ”へと広げた同展示会にて、岩谷技研は、2024年の商業利用開始を目指して開発を進める「宇宙遊覧フライト」用の気球・気密キャビンの模型を展示している。
宇宙から地球を眺めるための「気球」というモビリティ
北海道に拠点を置く岩谷技研は、高高度ガス気球を用いた宇宙遊覧の実現を目指す宇宙開発企業で、気球および乗員が乗り込む気密キャビンの設計・開発・製造を行っている。
同社が構想する気球での宇宙遊覧は、成層圏にあたる高度約2万5000mまでおよそ2時間をかけて上昇し、約60分間の遊覧ののちに海上へと着水するもの。厳密には高度10万m以上の領域とされる“宇宙”の範囲までは届かないものの、岩谷技研の担当者によると「宇宙に行ってやりたいことについてアンケートなどを行うと、“地球を見渡したい”という意見が最も多く見られる」といい、その目的を満たすことができるのに加えて、安全性やサービスの実現性などを併せて考慮した場合の最適な目標として、高度約2万5000mでの遊覧を目指しているという。
この有人宇宙遊覧プロジェクトは、2020年7月の始動以来、数々の打ち上げ・飛行試験で着実に成果を重ねており、2023年10月には気密キャビンに人を乗せた自由飛行試験で、成層圏の入り口とされる高度1万mへの到達に成功している。
これまでの開発について、前出の担当者は「理屈の上でできるとわかっていることを実行し、できなかった部分について検討を重ねて問題点を潰していく、というプロセスをひたすら繰り返してきた」と話す。特に気球部分については、材質や接合方法などさまざまな点で試行錯誤を繰り返し、現時点ではおおよそ完成形に近づいたとのことで、1歩ずつ歩みを続けることで現在の成果に至ったとする。
サービス実現加速に向け共創プロジェクトも始動
岩谷技研は、2024年夏ごろの遊覧サービス開始を目標に掲げている。そのための準備段階として、同年春に有人飛行での高度2万5000m到達を目指しているといい、現状の予測では目標高度を達成できる公算が大きいという。
しかしながら、同社が最終的に実現を目指すのは「遊覧サービス」だ。そのためキャビンに乗り込むのは「顧客」であり、その獲得のためには一定の快適性や利便性が求められるだろう。特にキャビン内の快適性についてはまだ課題が残されているといい、ここ半年間における最大の課題になってきたとのことだ。
そこで開始されたのが「OPEN UNIVERSE PROJECT」だ。宇宙の体験を民主化することを目指した同プロジェクトでは、気球による飛翔技術を開発する岩谷技研がもたない部分の技術やノウハウについて、各業界のパートナー企業と共創を行うことで、サービスの良質化を目指すとする。
なおすでに同社は、旅行サービス企業として多くのノウハウを持つJTBとの協力を発表。JTBは宇宙遊覧を含んだ旅行ツアーの企画・提案を担うという。またその他にもさまざまな企業との間で協議が進んでおり、今後も協力開始の発表が行われる予定だという。
「週末、宇宙行く?」という時代が近づいている
「調和と秩序のとれた宇宙(Cosmos)に身を置くことにより、人々の意識や視野が広がる旅(Journey)」をコンセプトに、高度2万5000mの宇宙遊覧実現を目指す岩谷技研は、今後キャビンの大型化も計画するなど、身近な宇宙遊覧を実現するための開発を進めている。
来夏の開始を目指す、気球を用いた宇宙遊覧サービス。もしかすると、「青い地球を眺めるために宇宙に行く」というプランが週末の過ごし方の選択肢に入ってくる日も、そう遠くないのかもしれない。
2023年11月1日16時5分訂正:記事初出時に、岩谷技研が構想する宇宙遊覧に関しまして、到達高度を「約2万5000km」と記載しておりましたが、正しくは「約2万5000m」となりますので、当該箇所を修正させていただきました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。