東京大学(東大)は10月27日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に関連して科学的に不正確な用語の「変異種」と正確な用語の「変異株」が含まれた716万2999ポスト(ツイート)と、7888件のテレビニュースデータを分析した結果、テレビニュースに比べ、X(旧Twitter)上で正確な用語の割合がより早い時期から増加していたことを示したと発表した。
同成果は、東大大学院 工学系研究科の鳥海不二夫教授、津田塾大学 総合政策学部のイム・ドンウ助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、社会科学や物理学、生物学、経学などを結びつける学際的な分野を扱う学術誌「Journal of Computational Social Science」に掲載された。
ソーシャルメディアにおいては、事実ではない情報が事実である情報よりも迅速に広がることが知られており、多くの先行研究がXを間違った情報の温床として指摘している。
その一方で、ソーシャルメディアは、正確な情報が不正確な情報を駆逐する自己訂正機能を発揮することもあるという。2020年下半期からイギリスなどを中心に広まった新しい種類のSARS-CoV-2は、最初は「変異種」として日本のメディアで報道されたが、科学的には「変異株」が正確だと専門家によって指摘された。これまで、X上のインフルエンサーが中心的な役割を果たした結果、科学的に正しい情報が広まった成功例が分析された研究が少なかったことから、研究チームは今回、X上での自己訂正プロセスにおいて、どのような情報発信者と情報源が影響を与えたのかを把握することにしたという。
今回の研究では、科学的に不正確な用語がX上で広まっている状況において、正確な用語がどのように拡散していくのかを検証するため、「変異種」と「変異株」に関連する710万以上のポストと、7800件以上のテレビメタデータが分析された。具体的には以下の3点が調べられた。
- X上で、科学的に不正確な用語と正確な用語の使用比率が時間経過と共にどのように変化したか
- 早い段階から正確な用語を使用したユーザはどのようなアカウントのポストをリポストしたのか
- 正確な用語の定着後も、頑固に不正確な用語を使用し続けるユーザはどのような情報源を参照しているのか
そして、結果は以下の通りとなった。
(1)については、「変異種」のX上での使用率は2020年12月末から減少し始め、2021年2月には90%以上が正しい用語の「変異株」に置き換えられた。この変化はテレビニュースよりもやや早く始まったという。
(2)については、X上のインフルエンサーが発信したポストをリポストしたユーザの場合は、早い段階から正確な用語の使用率が不正確な用語の使用率を上回ったとする。またデータ全体を対象に、最も多くリポストされたポストが分析された結果、トップ10のうち6つがインフルエンサーによって発信され、そのうち3人は医師であることがわかった。これは、この研究の対象がSARS-CoV-2と関連した医学的用語だったためと考えられるという。医学専門家が発信した医療関連のポストを信頼することは合理的といえるとする。一方、伝統的メディアやポータルサイトが発信したポストをリポストしたユーザは、全体ユーザの平均よりは早い時期に正確な用語の使用を始めたが、多くのユーザが依然として不正確な用語を使用し続けていたとした。
(3)については、2021年3月以降、90%以上のユーザが正確な用語を使用するようになったが、一部のユーザは依然として不正確な用語を使用していた。そのようなユーザの中では、YouTubeが最も頻繁に引用されるメディアだった。つまり、YouTubeを引用するユーザと不正確な用語を使用するユーザとの間に関連性がある可能性があるという。おそらく、これらの人々は主流の科学とは異なる意見を表現するため、不正確な用語を使用していることが考えられるとした。
今回の研究は、X内で不正確な科学情報がユーザ間の相互作用を通じて効果的に訂正されるプロセスが具体的なケースの分析で確認された。特に、専門的な知識を持つインフルエンサーの影響力は、ソーシャルメディア上の科学的情報の伝播において専門家の集団行動が重要な役割をする可能性を示唆しているという。
さらに、正しい用語を使用するユーザと正しくない用語を使用するユーザが、異なる情報源を活用していることも判明した。特に、YouTubeが情報源としてどのような役割を果たしているのかを含む研究が今後必要であることが考えられるとした。
なお、今回は特定のケースを分析したものであるため、結論を一般化することは難しいが、ハイブリッド・メディア環境での科学的情報の伝播のメカニズムを理解するための手がかりを提供することが考えられるとしている。