東北大学、東京医科歯科大学(TMDU)、芝浦工業大学(芝浦工大)、科学技術振興機構(JST)の4者は10月27日、ケミカルリサイクルのために開発された手法の「高温・高圧酸化分解」を利用した方法により、分解・劣化が進んだナノプラスチックのモデル作成に成功したことを発表。ヒト細胞培養を用いた実験により、ナノプラスチックモデルの濃度が高くなると、細胞膜が傷つけられ細胞死が誘導されることを解明したと併せて発表した。

同成果は、東北大大学院 工学研究科 材料システム工学専攻のスパトラー ヒランピンヨーパート特任研究員、同・小林真子助教、同・山本雅哉教授、TMDU 生体材料工学研究所 物質医工学分野の木村剛准教授、芝浦工大 デザイン工学部 デザイン工学科の田邉匡生教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、インタフェースが構造と機能を支配するシステムと材料の科学と応用に焦点を当てた学術誌「Langmuir」に掲載された。

近年、直径5mm以下のマイクロプラスチックが引き起こす環境問題が注目されており、特に生き物の食物連鎖を通じたヒトへの影響も懸念されている。自然環境中に投棄されたプラスチックは、紫外線による光酸化分解、微生物による生分解、物理的衝撃による機械的粉砕などにより砕片化され、マイクロプラスチックとなる。またさらに分解・劣化が進めば、直径1nm~1μmより小さいナノプラスチックになると考えられているが、微量かつ微小であるため、自然環境からそれらを回収・分離することは困難だとされている。

これまで、市販のポリスチレンナノ粒子やプラスチックを溶媒に溶解させてナノ粒子化する研究は報告されている。しかし、これらのナノ粒子は形状・サイズ・化学的性質が均質であり、自然環境中で分解・劣化が進んだナノプラスチックのような特性を持っていないといい、これまでの医療材料の研究から、ナノ粒子の材料特性によって細胞に与える影響が異なることが示されているとする。そのため、ナノプラスチックが生体に及ぼす影響を理解するためには、分解・劣化により材料特性を変化させたナノプラスチックモデルが不可欠であると考えられるという。

そこで研究チームは今回、使用済みプラスチックのケミカルリサイクルに利用されている高温・高圧酸化分解を利用し、プラスチックの分解・劣化を再現することで、ナノプラスチックモデルの作成に成功したとする。

具体的には、汎用性プラスチックの1つであるポリプロピレンに新開発の手法を用いたところ、処理条件に応じて分解・劣化が進行し、ナノサイズの粒子が得られることがわかったとのこと。そして、より高温で処理した場合にのみナノサイズ粒子が得られることを確認したという。また、原料のポリプロピレンには含まれないカルボキシ基が生じており、紫外線による酸化反応に伴ってカルボキシ基が導入されるという点で、劣化したプラスチックと類似の特徴が生じていたとしている。

  • ポリプロピレンと過酸化水素を水中で高温・高圧処理することで、温度に応じてマイクロプラスチックやナノプラスチックが作製できる

    ポリプロピレンと過酸化水素(H2O2)を水中で高温・高圧処理することで、温度に応じてマイクロプラスチックやナノプラスチックが作製できる。右の写真は走査型電子顕微鏡による観察結果(出所:東北大学)

さらに研究チームは、食物連鎖を考慮し、薬物などの細胞透過性実験法で広く用いられるヒト結腸がん由来のCaco-2細胞を利用し、ナノプラスチックモデルの細胞膜傷害性を調査。その結果、同モデルの濃度が高くなると細胞膜が傷つけられ、細胞死が誘導されることがわかったという。

研究チームによると、今回の研究で確立したポリプロピレンのナノプラスチックモデルを用いることで、ナノプラスチックが及ぼす生体への影響について理解が進む可能性があるという。加えて、ポリプロピレン以外のプラスチックに適用することで、さまざまな種類の分解・劣化ナノプラスチックによる製袋影響評価に活用されることが期待されるとしている。