日本人の生活や習慣から生み出された「和食」。2013年には、「自然を尊ぶ」という日本人の気質に基づいた「食」に関する「習わし」を、「和食;日本人の伝統的な食文化」と題してユネスコ無形文化遺産に登録されるなど、世界からの注目を集めるようになってきた。
そんな和食だが、意外とどういった歴史的変遷を経てきたのか、そもそもなぜ和食という文化が誕生したのか、そんな和食についてバラエティ豊かな標本や資料とともに、科学や歴史などの多角的な視点から紹介する特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」が東京・上野の国立科学博物館(科博)にて2023年10月28日より開催される。
同展はもともと2020年に開催される予定であったが、新型コロナウイルス感染症の影響で中止が決定。今回、改めて開催されることとなった経緯がある。そんな和食展の構成は大きく6章構成となっており、第1章の「『和食』とは?」では、世界と日本の食を比較して、和食とは何か? を考えることができる。第2章の「列島が育む食材」は、食の基本となる「水」、自然から得られるキノコ、山菜、野菜、海藻、魚介類といった日本で手に入る豊かな食材たち、そしてそうした食材を美味しく食べるために生み出された発酵技術や出汁といったものまで、標本を中心に科学的な視点で知ることができる。
食材の多くが種類が多種多様にあるため、その展示数もかなりのもの。例えばキノコは全世界で2万種ほど、日本にはそのうち3000種ほどが分布されているという。また、我々が普段口にする多くの野菜が約3000年ほど前に誕生したと言われること、その多くの原産国が海外であること、大根(原産国は欧州、日本には弥生時代以前に持ち込まれたとされる)1つとっても江戸時代以降の品種改良により世界でもっとも多い800品種以上が日本には存在するとされており、同展でもそのうち25種類のレプリカが展示されている。
また、食されている種類は世界屈指とされる魚介類の実物標本のコーナーには地図に映し出された魚の影に手をかざすとその魚の説明が浮かび上がるインタラクティブな映像コーナーなども用意。食材を美味しく食べるための工夫の1つである「発酵」の紹介としては酒、しょうゆ、みそといった実際の食べ物に加え、発酵の過程で重要な役割を果たす微生物の紹介までも行われている。
このほか、珍しいものとしては「うま味」の主役でもあるグルタミン酸を1908年に発見した池田菊苗博士が実際に昆布から抽出した「第一号抽出具留多味酸」の展示も見ることができる。
第3章は「和食の成り立ち」。縄文時代から近代までの食事風景の変遷を知ることができる仕掛けで、歴史上の有名人物たちの食卓を再現したものも、古代の卑弥呼から戦国時代の織田信長(が安土城で徳川家康を3日間にわたってもてなした饗応膳)、幕末のマシュー・ペリー(2度目の来日の際の饗応膳)、明治天皇まで幅広く見ることができる。
また、立体展示として江戸のファーストフードである二八そば、寿司、天麩羅の屋台も展示。それら屋台をバックに記念撮影を楽しむこともできる。
第4章は「和食の真善美」。和食というと食材に目が行きがちだが、それに彩りを添えるためのさまざまな道具も和食の発展とともに進化してきた経緯があり、包丁を筆頭にさまざまな道具が展示されている。
第5章は「わたしの和食」。時代とともに変化してきた和食の定義を踏まえ、リアルタイムで集計されるその食べ物が和食かどうかのアンケートを見ることができるほか、来場者に自分にとって印象深い和食をほかの来場者に伝える「あなたの忘れられない和食を教えてください」のコーナーも用意されている。
第6章は「和食のこれから」で、こちらは第2会場となる。科学と技術の発展により、これまで人間の手では不可能だった取り組みも可能になることを知ることができるコーナー。つい先日、近畿大学がニホンウナギの完全養殖成功を公表したが、同展でも人工ふ化されたニホンウナギのレプトセファルス(レプトケファルスとも)幼生を見ることができる。
このほか、科博特別展でおなじみの売店では、同展の応援キャラクターであるリラックマの同展限定ぬいぐるみや、和食をモチーフにしたグッズ、実際の調味料や和菓子の老舗「とらや」の特製羊羹や干菓子なども販売されている。
なお、同展の開催概要は以下の通り。
- 会場:国立科学博物館(東京・上野) 地球館地下1階 特別展示室
- 会期:2023年10月28日(土)~2024年2月25日(日)
- 開館時間:9時~17時(入場は16時30分まで)
- 休館日:月曜日、12月28日~1月1日、1月9日、2月13日、ただし12月25日、1月8日、2月12日、2月19日は開館
- 入場料:一般・大学生2000円、小・中・高校生600円、未就学児は無料(国立科学博物館特別展券売所、アソビュー!、各種プレイガイドにて購入可能。各種プレイガイドでのチケット購入の場合、来場時に購入したコンビニ店頭で発行した紙チケットが必要なことに注意)
- 会場内は基本的に撮影可能だが、一部写真撮影禁止の展示物ならびに映像がある点に注意。会場内でのフラッシュ撮影、三脚、一脚、自撮り棒の使用および動画撮影は禁止。
ちなみに、国立科学博物館では2023年10月24日~11月5日の期間限定で、科博に寄贈されたアーガイル鉱山から産出した希少なピンクダイヤモンドとカラーレスダイヤモンドを18金に贅沢にちりばめた金の卵型宝飾品「アーガイル・ライブラリー・エッグ」も展示されている。展示場所は地球館3階 講義室(スタジオ)という、特別展会場の上、地球館3階のヨシモトコレクションを抜けた奥の部屋で若干わかりにくいところにあるが、めったに見れない貴重な宝飾品を見ることができるいい機会でもあるので、開催期間中に特別展に赴かれる方は併せて見ておくことをお勧めする。