NTTと東京電機大学(電大)の両者は10月26日、超高速と高精度を両立する電波伝搬シミュレーションの実現アルゴリズムを開発し、実際の量子アニーリングマシン上で有効性を実証したことを共同で発表した。

同成果は、NTTと電大の共同研究チームによるもの。詳細は、2023年11月14日~17日に開催されるフォーラム「NTT R&D FORUM 2023 IOWN ACCELERATION」で発表される予定だ。

無線通信品質推定のための代表的なシミュレーション手法である「レイトレース法」は、電波の通り道の探索や反射、回折といった電波の作用についての複雑な計算を行う必要があるため、膨大な計算時間を要求されることが課題だった。

それに対して研究チームが2022年12月に考案したのが、アニーリングマシン上で動作する「伝搬QUBOモデル」で、古典計算機上でのレイトレース法と比べ、計算時間を100万分の1以下に短縮することに成功していた。しかし、次世代移動通信(6G)の中で検討が進められている、場所・時・人に合わせた端末個々に対して所望の品質を確保するための柔軟なネットワーク制御を行うには、高速性を維持したまま場所固有の無線通信品質推定を高い精度で実現することが求められる。そのためには、実際の環境における電波の散乱について、壁面などに入射する角度と出射する角度の関係性を伝搬QUBOモデルに取り込む必要があったという。

  • 壁面における電波散乱モデル

    壁面における電波散乱モデル(出所:NTT プレスリリースPDF)

サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合したシステム上で求められる無線通信品質推定は、ミリ秒オーダーの高速性と、誤差が数dB程度となる高精度化が両立したものだ。さらに、実用化のためには現行のアニーリングマシンで提供される量子ビット数の範囲内で計算が実行できる必要がある。そこで研究チームは今回、これらの課題を同時に解決するアニーリングマシン上で実行可能な新しい伝搬QUBOモデルを考案したという。

研究チームは、今回考案した新たな伝搬QUBOモデルにより、従来技術で実現されていたリアルタイム性を保ったまま、ピンポイントな場所に対する無線通信品質推定の高精度化を両立させることに成功したとする。また、疑似量子アニーリングによる動作検証のみならず、疎結合(一部のスピン間にしか相互作用のない状態)5640量子ビットの量子アニーリングマシンにて考案された伝搬QUBOモデルを実際に動作させることに成功し、アルゴリズムの有効性が実機で確認されたとしている。