ispaceは10月20日、経済産業省による「中小企業イノベーション創出推進事業」の対象事業に採択されたことを発表した。公募テーマは「月面ランダーの開発・運用実証」で、補助金の上限は120億円。これについて、同社は23日、オンラインで質疑応答の場を設け、今後開発する新型ランダーなどについて説明した。
同社は日本発の宇宙スタートアップであるが、日本、米国、ルクセンブルクの世界3カ国に拠点を置く多国籍企業だ。同社初のランダーである「シリーズ1」ランダーは日本主導で開発し、2022年12月に打ち上げ。残念ながら月面着陸には失敗したものの、続いて2024年に改良した同型のランダーを打ち上げ、再挑戦する予定となっている。
シリーズ1ランダーは、搭載可能なペイロードが30kg程度だったが、NASA(米国航空宇宙局)の月面輸送ニーズに対応させるため、より大型化した「APEX1.0」(旧シリーズ2)ランダーを、現在、米国主導で開発中。これが同社として3回目のミッションになる予定で、打ち上げは2026年に行われる見込みだ。
今回発表されたのは、APEX1.0とは別に、日本主導で新たに「シリーズ3」ランダーを開発するということだ。打ち上げは2027年を予定。同社代表取締役CEO&Founderの袴田武史氏によれば、このシリーズ3ランダーの初打ち上げは6回目のミッションとして行うことを想定しており、その前に現時点で未発表の2回の打ち上げを計画している模様だ。
シリーズ3ランダーはこれから設計を開始するところとのことで、どのようなランダーになるのか、詳細は未定なのだが、少し分かりにくいのは、APEX1.0ランダーとの違いである。APEX1.0のペイロードは現在300kgで、将来的には500kgまで拡張する計画。現時点でこれ以上の大型化が必要とは、ちょっと考えにくい。
公募テーマには「100kg以上のペイロードを月面輸送する」との要件があるため、100kg以上になることは確実だが、シリーズ3ランダーの輸送能力について、同社CTOの氏家亮氏は、「まだ検討中だが、会社として、最終的には500kgを目指している」と回答した。
今後の開発の進め方について、同氏は「APEX1.0からフィードバックをかけ、共通化できるところは共通化し、開発の効率を上げていく」とコメント。その一方で、「顧客の要望次第だが、地域ごとに必要な対応が出てくる場合がある。そのあたりで差別化するところも出てくるだろう」と、見通しを述べた。
袴田氏も、「APEX1.0は米国中心のマーケットで使っていくが、米国以外にも数多くの需要がある。そういった需要を獲得していくために、日本中心でランダーをもう1台開発して、米国以外の需要にも合わせて事業を進めていくのが重要」と指摘。「よりユーザーにとって魅力的なランダーにしたい」と、意気込みを述べた。
なお、日本主導で開発したシリーズ1ランダーは、欧州で製造され、米国で打ち上げられた。シリーズ3ランダーの打ち上げがどうなるかはまだ分からないものの、公募テーマには「我が国の基幹ロケットを用いることが推奨される」との記述もあり、もしかしたら、日本のH3ロケットが使われる可能性もあるかもしれない。