大阪大学(阪大)、日本原子力研究開発機構(JAEA)、理化学研究所(理研)、静岡大学、立命館大学、甲南大学、摂南大学、広島大学の8者は10月24日、大型放射光施設SPring-8における共同研究により、希土類元素のセリウム(Ce)を含む化合物「CeNi2Ge2」の超伝導状態を形成する“電子のカタチ”ともいえる、実空間における電荷分布を、高輝度放射光により直接捉えることに成功したと発表した。

同成果は、阪大大学院 基礎工学研究科 藤原秀紀助教、同・中谷泰博大学院生(研究当時)、同・関山明教授、JAEAの斎藤祐児研究主幹、静岡大の海老原孝雄教授、立命館大の今田真教授、甲南大の山﨑篤志教授、摂南大の東谷篤志准教授、広島大の田中新准教授、理研の玉作賢治チームリーダーらの共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する物性物理とその関連分野全般を扱う学術誌「Physical Review B」に掲載された。

希土類Ce化合物は、Ceイオンの内側の4f軌道に主に束縛されている電子(Ce4f電子)が、電気伝導を担う電子とわずかに結合することで、多様な性質を示すことが知られている。たとえば、ニッケル(Ni)とゲルマニウム(Ge)を含むCeNi2Ge2の場合は、低温で超伝導となる。このCe化合物超伝導体は、超伝導になるとともに電子の“みかけ”の質量が重くなるという特殊な性質を有していることが知られている。超伝導の実用化を進めるためにはそうした未解明の謎を明らかにしていくことが必要であり、超伝導になる電子の空間分布の解明もその1つとされているものの、その空間分布の直接観測は困難であるとされてきた。

そこで研究チームは今回、外部光電効果により試料から飛び出す光電子のエネルギーを分析する硬X線光電子分光、およびX線吸収分光に、放射光の偏光可変特性を組み合わせた新たな研究手法を開発し、CeNi2Ge2のCe4f電子軌道の方向依存性の可視化を試みることにしたという。

この取り組みで可視化に成功。その結果、Ce4f電子の電荷分布は結晶中のGeに向かって伸びていることが確認され、Geサイトを制御することにより超伝導の性質を制御できる可能性があることがわかったと研究チームでは説明している。また、これまでCeNi2Ge2におけるCe4f電子状態の異方性は議論が繰り広げられてきたが、その起源となる電荷分布の直接観測には至っていなかったことから、研究チームでは、今回の研究結果がCe4f電荷分布が超伝導の発現に重要な役割を示す実験的な証拠となるともしているほか、角度分解光電子分光により、電子の運動状態を示すバンド構造が測定され、方向依存性を持つCe4f電荷分布が、結晶中のGeイオンの原子軌道によるバンドとよく結合することが判明したことから、電子軌道の形状を観察することにより、物質の性質を制御するための“設計図”を作成可能になったともしており、これらの成果は新しい超伝導材料などの物質設計や探索に貢献する技術として期待される上に、Society 5.0の実現に向けた次世代材料開発研究にも貢献するとしている。

  • 希土類超伝導体CeNi2Ge2のCe4f電荷分布

    (a)希土類超伝導体CeNi2Ge2のCe4f電荷分布。(b)結晶c軸方向から見たCe4f電子の軌道方向。(c)硬X線光電子線二色性スペクトル (出所:静岡大Webサイト)