中国の商務部(日本の経済産業省に相当)および税関総署は10月20日、さまざまな種類の工業製品の原材料となる黒鉛(グラファイト、中国語では石墨)に関して、12月1日から新たな輸出管理規制を導入すると発表した。

中国は世界トップクラスの黒鉛生産国であり、日本は黒鉛の9割以上を中国からの輸入に頼っている。そのため、リチウムイオン電池製造(負極材)や半導体製造(耐熱部材)など電子産業にも大きな影響をもたらす可能性がある。

新たな規制では2種類の黒鉛が許可制となる。1つ目は、純度が99.9%以上、強度が30MPa以上、密度が1立方センチメートル当たり1.73g以上の人造黒鉛材料と関連製品。もう1つは天然の鱗片状黒鉛(球状黒鉛、膨張黒鉛含む)。

中国の輸出業者は、エンドユーザーと最終用途の証明書などの必要書類を商務省に提出し、輸出許可を得る必要がある。輸出業者が許可なく輸出したり、許可の範囲を超えて輸出したり、その他の違法行為を行った場合、商務省や税関は関連法令に基づき行政罰を課し、犯罪を構成する場合には刑事責任を問うという。

2022年の中国からの人造黒鉛出荷量は世界全体の8割以上を占めているほか、同年の天然黒鉛産出量は世界全体の65%を占めていたという。リチウムイオン電池の製造に必須である黒鉛の規制強化は欧州連合(EU)の中国製電気自動車に対する調査や米国政府による対中半導体輸出規制への対抗策といった見方が出ているが、中国政府は、特定の国を対象にした規制ではないと否定している。

欧米と中国のデカップリングに伴い、中国側が世界シェアの多くを握る原材料の輸出規制がエスカレートする懸念が現実のものになりつつあると言える。

中国当局がレアメタルを扱う日本商社の現地社員の身柄を拘束

このほか、中国をめぐっては、日本のレアメタル(希少金属)を扱う非鉄専門商社の中国人社員の身柄が中国当局に今春拘束されたことが10月22日、複数のメディアで報じられている。同社と取引関係がある中国企業側の中国人社員も身柄を拘束されたとみられる。身柄拘束の理由は不明だが、中国はレアメタルの統制を強めており、情報漏洩が疑われた可能性があるという。すでに、この事実は中国と取引のある商社の間で共有され、中国の反スパイ法の実態が把握できないこともあり、中国への出張を控える動きも出ているという。日本政府も日本の商社の現地社員が拘束された事実を把握していると松野官房長官が記者会見で明らかにしている。

中国は、2023年8月1日よりゲルマニウムとガリウムの輸出を規制対象として、輸出するためには中国規制当局の許可を必要としたが、今後、米国の対中半導体輸出規制への対抗として、半導体製造に使用される複数のレアメタルを規制するのではないかと懸念されている。日本は、半導体製造に使われるレアメタルの多くを中国からの輸入に頼っていることから、早急な対応策が求められる。