経営において、ESG、とりわけサステナビリティ(持続可能性)を重視する組織が増えています。2021年に開催されたCOP26にて、世界の平均気温上昇を「1.5度」に抑える目標が掲げられたことで、多くの組織がネットゼロ目標の設定とそれを達成するための計画の策定に注力するようになりました。
しかし残念ながら、多くの組織では、公に掲げた目標と社内での実際の取り組みとの間にずれが生じているのが現状です。ピュア・ストレージは最近、サステナビリティ担当者を対象に調査を日本で実施しました。その結果、回答者の約92%がサステナビリティの取り組みについて目標を設定している一方で、実際に目標達成に向けて順調に進めていると回答したのは約37%にすぎないことが分かりました。
このギャップを埋めるため、社内の取り組みを推進しようとする熱意や意欲はあるが、何から始めればよいのか分からないという人も少なくありません。そこで本稿では、サステナビリティについて、より大きなプラスの変革を組織にもたらすために、経営層が注目すべき5つのポイントを紹介します。
(1)あらゆるものの使用量やコストを数値化する
多くの組織は、電力や機器の冷却にかかるコスト、つまり1時間あたり何メガワット使用されているのかといったエネルギー使用量やコストについて、明確に把握できていません。それらが実際に測定されることなく、提示されるコストをそのまま受け入れているケースもあります。
これは悪しきビジネス慣習であるだけでなく、環境改善できる可能性がある場所を把握する妨げにもなってしまいます。また、担当者が省エネ技術を導入しても、正確な測定が行われずフィードバックを得られなかった場合、環境改善は正しく評価されません。
測定には、統合されたトップダウン戦略が必要です。全体像を把握することは難しいかもしれませんが、ベンチマークを理解するためには必要なことです。例えばデータセンターでは、温室効果ガス排出の最大の原因となっているテクノロジーは何か、電力消費量はどのくらいか、テクノロジーの選択によってこれをどう変えることができるのか。もし活動が測定されなければ、改善することはできませんし、成果を定量化することもできません。
(2)レガシーシステムを排除する
測定が行われれば、どこにペインポイントがあり、エネルギー排出量を削減するために何をすべきかが明確になるでしょう。エネルギー削減ができない原因として、炭素の大量消費と非効率な既存のテクノロジーがしばしば引き合いに出されます。それらは革新を阻むだけでなく、排出量削減の妨げにもなる恐れがあります。
しかし、技術刷新の中には、エネルギーの点で非常に大きなコスト削減効果が期待できるものがあり、新しいインフラを導入する際の価値提案の一部となっています。
例えば、当社の英国のお客さまであるAdmiral社は、ピュア・ストレージへの移行により、データセンターの電力と冷却コストを74%削減し、電力消費量を56%削減しました。イタリアのお客さまであるマネージド・サービス・プロバイダーのElmec社は、データセンターでの設置面積を85%削減し、電力使用量を半分に減らすことに成功し、データセンターのコスト削減により、早期の投資回収を実現しました。
さらに、組織はスコープ1と2の排出量に加え、スコープ3を考慮する必要があり、内部だけでなく、外部プロバイダーのエネルギー使用についても調べる必要があります。これらを無視することはできないので、まずは詳細を把握することが肝要です。レガシーな機器は、スコープ1、2、3の排出量に大きな影響を与えるため、長期的な削減を実現するには、これらの問題に迅速に対処する必要があるでしょう。
電子廃棄物も検討すべき課題です。製品の寿命が尽きるとどうなるでしょうか。レガシーなハードウェアは3、4年で寿命を迎えることが多く、廃棄により環境負荷が増大します。一方で、定期的な陳腐化を想定していない長寿命のテクノロジーの場合、数年ごとに交換するのではなく、常に最適な状態に保つためにアップグレードしていくのです。
(3)言葉にして伝える
自社の取り組みをどのように報告・発信すればよいのか、悩んでいる組織も多いでしょう。進捗度合を正直に公開しなければ、グリーンウォッシュと見なされるおそれもあります。これは、勝者を決める組織間の競争ではなく、地球のための取り組みです。他社の取り組みについて聞くことは、別の視点、または業界の視点を得られる、貴重な機会です。
社内では、組織全体が関与し、投資していく必要があります。CEO主導でサステナビリティレポートやESGレポートを作成し、目標を公表する組織が増えています。そういったレポートは、従業員や見込み顧客のために、組織の優先順位を示す重要な文書です。さらに、特に若い世代はサステナビリティに対する意識が高いため、採用のためのツールとしても有効です。
(4)サステナビリティ担当者を採用する
サステナビリティに特化した役職は、今後増えていくでしょう。組織内のさまざまな考え方や活動をまとめるのは難しいので、サステナビリティの上級管理職を置くことは理にかなっています。
サステナビリティ担当者は、サステナビリティ戦略の全体像を組織全体に周知させることで、活動や変革の効果を最大限に高める必要があります。
(5)規格に登録する
サステナビリティには多くの規格がありますが、残念ながら、それらは全て互いに同意しているわけではありません。また、地理的な違いもあり、一般的にヨーロッパが認知度や採用の面で先行しています。EcoVadisやScience Based Targets Initiative(SBTi)といった規格は認知度が高いため、手始めに取得するには良いかもしれません。
さらに、白物家電に適用されている「エネルギースター(ENERGY STAR)」が、企業ITにも適用されつつあります。これは大変分かりやすく、顧客や営業チーム、そして何より地球のために、十分な情報に基づいた意思決定を行うのに役立ちます。
熱意を行動につなげる
サステナビリティについて考えることは、人や地球にとって重要であり、組織はより環境に配慮した慣行を採用することが不可欠です。サステナビリティに対する熱意を、インパクトのある実際の行動に結びつけることが非常に重要です。
そうすることで、組織は正しい行いができるだけでなく、正しいプロセスやテクノロジーを導入すれば、コストや排出量までもが迅速に削減されます。
いつか、こうしたステップやプロセスをサステナビリティの取り組みとしてではなく、標準的なビジネス慣行として語られるようになる日がくるでしょう。より良い組織、そしてより住みやすい地球のためにどのような取り組みを行うべきなのか、さらに今後どのように改善すべきかについて、オープンかつ実直であり続けることが重要なのです。