本田財団(石田寛人理事長)は2023年の本田賞を、世界最強の永久磁石である「ネオジム磁石」を発明した大同特殊鋼の佐川眞人(まさと)顧問と、米ジョン・クロートコンサルティング社のジョン・クロート元社長に授与すると発表した。モーターや電子機器の大幅な小型化を実現して社会のIT(情報技術)化などを進展させたほか、二酸化炭素(CO2)排出減にもつながった点が評価された。贈呈式は来月16日に東京都内で開かれ、計1000万円が2氏に贈られる。

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    (左)佐川眞人氏、(右)ジョン・クロート氏(いずれも本田財団提供)

永久磁石は電子機器や機械、自動車など幅広い分野で活用され、現代の基幹部品となっている。かつて最も強力な磁石は1969年に開発され、レアアースのサマリウムと金属のコバルトを組み合わせたものだった。いずれも希少資源のため、安価で豊富な材料を使った高性能の磁石が求められた。

こうした中、両氏は豊富にある鉄を使った磁石の可能性を研究。サマリウムの代わりに、レアアースの中では比較的存在量の多いネオジムと、微量のホウ素を加えた永久磁石を同時期に発明した。

佐川氏は、レアアースと鉄を使った磁石の開発が難しいのは、鉄原子同士の距離が近すぎるためであると認識。「原子サイズの小さい物質が鉄原子同士の間に入れば、距離を広げられる」との仮説を立てた。1978年にネオジムと鉄に、原子の小さいホウ素を組み合わせることで、強い磁力が出ることを突き止めた。ただし、ホウ素の添加で鉄原子同士の距離は広がってはおらず、鉄の特性が変化するためであることが、後に判明したという。

さらに、熱処理で粒子を結合させる製法「焼結法」を見いだした。この製法のネオジム磁石から、従来のサマリウム・コバルト磁石を大きく上回るエネルギーが取り出せた。1982年の特許出願からわずか3年で量産を開始。自動車や家電製品を皮切りに、近年では電気自動車や風力発電のモーターにも使われ、世界中で幅広く活用されている。

一方、クロート氏は米自動車大手ゼネラルモーターズ社の研究所で、磁石の開発に従事。やはり1982年、高温で液体にしたネオジムと鉄、ホウ素の化合物を急速に冷却して高性能の永久磁石を作る「液体急冷法」を開発した。この方法の永久磁石は、磁石の粉末を樹脂で固めて成形して作る「ボンド磁石」の基礎となった。焼結法のものより磁気は弱いものの複雑な形にでき、コンピューター周辺機器などの精密機器に利用が進んだ。製法の工夫により、焼結法と同等の性能を持つものも開発されたという。

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    (左)焼結法によるネオジム磁石、(右)複雑な形にできるネオジムボンド磁石(いずれもダイドー電子提供)

ネオジム磁石は自動車や家電、精密機器、産業機械など多彩な製品のモーターなどに活用され、永久磁石市場の95%を占めるほどに普及。ハードディスクを小型化して社会のIT化を進めるなど、幅広い分野で不可欠の基幹部品となった。電動化やモーターの性能向上を通じ、CO2排出減につながっている。

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