岐阜大学は10月18日、約800年以上の歴史がある和歌山県の「紀州なれ寿司」の発酵過程で中心となる微生物を分析し、多様な乳酸菌が発酵に貢献していることを解明。そしてそれらの乳酸菌群に、これまで日本の伝統的自然発酵食品の中での存在例がなかったビフィズス菌が含まれていることを確認したと発表した。

同研究は、岐阜大 応用生物科学部の岩橋均教授らの研究チームによるもの。詳細は、国際学術雑誌「Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry」に掲載された。

現在の寿司の原型とされる「なれ寿司」は、日本全国に見られる自然発酵の寿司で、中でも和歌山の紀州なれ寿司は、日本3大なれ寿司の1つともいわれる。この紀州なれ寿司は、開いたサバを1か月以上塩漬けにした後、一晩かけて水で塩を抜いてから飯に乗せ、植物の葉で巻いてから樽に詰めて、重石を載せて発酵させることで完成する。この発酵日数は、一般的には1週間前後だという。

今回研究チームは、明治時代からなれ寿司を生産する和歌山市の「弥助寿司」からなれ寿司を入手。そして発酵の過程において中心となる微生物を分析し、なれ寿司の発酵においてはさまざまな乳酸菌が貢献していることが確認されたとしている。

また、その乳酸菌の中にビフィズス菌が含まれていることも判明したとのこと。主に人間や動物の腸内に存在する善玉菌で、乳製品などにも含まれることで知られるビフィズス菌だが、これまでに日本の伝統的な自然発酵食品に存在するという報告はなかったという。

そこで研究チームは、なれ寿司に含まれるビフィズス菌の分離に挑戦したというが、他の乳酸菌と混在していることから、分離は困難だったとする。そのため、ビフィズス菌だけを生育させるために生育条件(温度・空気量・生育時間)を検討し、栄養源(糖やアミノ酸)の種類を変えるなどして、1万件以上の検体を検査した結果、ビフィズス菌の分離に成功したとしている。

その後、今回分離されたビフィズス菌は「Bifidobacterium pyschroaerophilum」であることが遺伝子解析から判明し、「Bifidobacterium pyschroaerophilum Yasuke株」と名付けられた。

岐阜大の岩橋教授によれば、「研究室では、Yasuke株を用いて、ヨーグルトとチーズの試作に成功している」といい、研究チームは今後、今回の研究で分離されたYasuke株が、日本の伝統食品を由来とするビフィズス菌を用いたジャパンブランドの発酵乳製品開発に利用されることが期待されるとしている。

  • 今回の研究概要

    今回の研究概要(出所:岐阜大学)