新潟大学(新大)は10月17日、八海醸造、新潟県農業総合研究所との産官学連携による研究で、米麹から抽出されたエキスが、心理身体的ストレスが引き起こす不安や痛みを軽減することを、モデル動物および培養細胞モデルを用いて解明したと発表した。
同成果は、新大大学院 医歯学総合研究科の岡本圭一郎准教授(歯学部口腔生理学分野 准教授、日本酒学センター 協力教員 兼任)、同・柿原嘉人助教(歯学部歯科薬理学分野 助教、日本酒学センター 専任教員 兼任)に加え、八海醸造、新潟県農業総合研究所 食品研究センターの研究者も参加した産官学共同研究チームによるもの。詳細は、栄養学に関する全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Nutrients」に掲載された。
現代社会ではさまざまなストレスが存在し、時に過度なストレスが心身の健康障害を引き起こすこともある。そのため日々のストレスを解消するには、生活習慣の工夫によって対処することが必要だという。中でも食習慣は、ストレス軽減のみならず健康生活を維持するためにも重要となる。
そこで研究チームは、甘酒や日本酒などの原料となる米麹に着目。日本国内では奈良時代から摂取されてきた米発酵食品の代表的な存在であり、多くの栄養素を含むことから健康食として親しまれてきた米麹については、近年の研究で、ストレス軽減効果のある機能性成分を含んでいることが解明されていた。しかし、日常的な米麹の摂取がストレスの軽減に関与するか否かについては、明らかになっていなかったことから、今回の研究でその詳細に迫ったという。
研究チームはまず、八海醸造より供与された米麹エキス、または米麹エキスに含まれることが示されているエルゴチオネインを、心理身体的ストレス状態のマウスに連日経口投与した。なおエルゴチオネインは、麹菌を含む真菌類などの一部の微生物のみが産生できる抗酸化能を有した天然物で、ヒトが取り込むためには麹菌発酵食品やキノコ類から摂取するほかない物質だ。
すると、ストレス誘発性の不安や痛みに関連する行動が軽減することを確認したとする。そしてそのメカニズムを詳細に探ったところ、視床下部や延髄の大縫線核、腰髄など、不安や痛みの情報を処理する領域に存在する神経細胞の興奮性の改善によることが示唆されたとのことだ。
また、ヒトの神経細胞様細胞を用いた実験では、米麹エキスまたはエルゴチオネインが、神経栄養因子であるBDNFの発現を調整するなど、細胞レベルでの機能発現に影響を与える子も明らかになったという。
これらの結果から研究チームは、日常的な米麹の摂取がストレスを軽減できることが示唆されたのに加えて、日本古来の食習慣が健康増進に有益であることの事例を、科学的に説明することになるとする。そして今後は、米麹に加え、新潟県の看板食品ともいえる酒粕などの米発酵食品によるストレス軽減作用を検討することで、より安全性が高く簡便なストレス軽減法の開発を目指すとしている。