京都府立医科大学と東北大学の両者は10月19日、貧血のある「重症大動脈弁狭窄症」患者のうち、94%に見られる消化管出血性病変に対して「大動脈弁」のカテーテル治療を行うと、消化管出血性病変の数や大きさが改善することを明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、京府医大大学院 医学研究科 循環器内科学の彌重匡輝後期専攻医、同・全完准教授、同・大学大学院 医学研究科 消化器内科学の井上健助教、東北大 加齢医学研究所 基礎加齢研究分野の堀内久徳教授、同・道満剛大学院生ら16名の研究者が参加した共同研究チームによるもの。詳細は、医学に関する全般を扱う学術誌「New England Journal of Medicine」に掲載された。
大動脈弁狭窄症は心臓弁膜症の一種で、全身に血液を送り出す左心室の出口(左心室と大動脈の間)に位置する同弁が何らかの原因で硬くなって血液が通りにくくなり、その結果として心臓に余計な負荷がかかってしまう疾患である。加齢による大動脈弁の変性によって起こることが多く、現在日本では75歳以上の約8人に1人が罹患していると推定されている。
同疾患で注意すべき点は「ハイド症候群」と呼ばれる合併病態で、しばしば消化管出血を来すこともある点だ。日本の医学教科書では、ハイド症候群についてあまり取り上げられてこなかったため、日本の医療現場に知識が行き届いているとはいえないのが現状だという。
そうした中で研究チームは、小腸に頻発した出血しやすい「血管異形成」に対し、大動脈弁狭窄症の治療を行うと消退していくことを解明。大動脈弁狭窄症にはしばしば消化管出血を伴うことがわかっていれば、治療方針は大きく変わるという。もし知識がなければ、そのような病態の患者の場合、手術が行われないケースもあったが、ハイド症候群を理解していれば小腸カプセル内視鏡によって小腸にある血管異形成の止血を確認し、カテーテルあるいは手術で大動脈弁の治療を行うことができ、患者は回復できるとした。
大動脈弁狭窄症がしばしば消化管出血を来す原因は、大動脈弁の狭窄部を血液が流れることで生じる非常に強い「ずり応力」にある。それは止血作用に必須である血液中の「フォンウィルブランド因子」を破壊することによって、止血異常症である「後天性フォンウィルブランド症候群」を来し出血しやすくなり、同時に消化管粘膜に出血しやすい血管異形成という異常血管が形成されてしまうとする。この十数年の研究で、大動脈弁狭窄症の治療を行うと、後天性フォンウィルブランド症候群は治癒することが突き止められたが、血管異形成については、ほとんど実態がわかっていなかったとする。
そこで今回の研究では、重症の大動脈弁狭窄症時の血管異形成の実態を解明するため、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVR)治療が計画されている貧血のある重症大動脈弁狭窄症の患者50名に、血液検査および消化管内視鏡検査を行い、臨床経過と共に解析をすることにしたという。
そして、以下の3点が明らかになったとした。
- 多数の血管異形成が存在
- 10%で出血が認められた
- 心臓を治療すると消化管の出血も改善
(1)については、重症大動脈弁狭窄症の94%の患者に1人あたり平均12個の血管異形成が確認されたという。小腸が最も多く、67%の患者に血管異形成が確認された。大動脈弁狭窄症の患者が消化管出血を来した場合、胃と大腸だけではなく小腸も確認する必要があると考えられるとする。
(2)については、重症大動脈弁狭窄症の患者の約半数に貧血があるとされ、また患者の10%は自覚症状がないにも関わらず、血管異形成からの出血が確認されている。血管異形成からの出血が貧血の主要要因である可能性があるとした。
(3)については、大動脈弁の治療によって、止血因子であるフォンウィルブランド因子の過度の分解がなくなり、貧血が改善したという。半年から1年後には消化管血管異形成の数は減少し、大きさも縮小し、出血を起こしている血管異形成はなかったとした。循環器疾患の治療と消化管粘膜病変が密接に関連していることがわかったとする。
今回の研究により、重症大動脈弁狭窄症で消化管出血を合併している場合、大動脈弁狭窄症の治療を行うことで、心機能だけでなく消化管出血も改善できることが確かめられた。なお、この10年ほどで大動脈弁治療は、カテーテルを用いることで比較的安全に行えるようになってきたという。また、今回の研究で心臓と消化管が関連していることが突き止められたように、臓器間の相関を考慮することが、今後の医療における検査、診断、治療において非常に重要になることが考えられるとしている。