高知工科大学(KUT)は10月19日、NASAの探査機「OSIRIS-REx(オシリス・レックス)」が採取した小惑星ベンヌの試料を封入したカプセル(直径約80cm・重量約46kg)が9月24日に地球大気圏に再突入し、超音速で落下した際に発生した衝撃波による「インフラサウンド」(人間に聞こえない20Hz以下の低周波の音)の計測に成功したことを発表した。

同成果は、KUT システム工学群 宇宙地球探査システム研究室の西川泰弘助教、同・大学大学院 航空宇宙工学コースの蓮見佑太大学院生らの研究チームによるもの。

  • インフラサウンドの観測は、カプセルの通り道である米国ネバタ州ユーレカで行われた

    インフラサウンドの観測は、カプセルの通り道である米国ネバタ州ユーレカで行われた(出所:KUT Webサイト)

周波数20Hz以下の音であるインフラサウンドは人間の可聴範囲を下回るために聞こえないが、その周波数の低さゆえに大気中を長距離まで伝搬するという特性を持つ。宇宙から大気圏に落下してきた超音速の物体だけでなく、火山噴火や地震、津波、落雷、土砂崩れ、大規模爆発などの災害・人災によっても発生することがわかっている。それらをリモートセンシングすることで、災害の早期探知や規模(エネルギー)の解析を行うなど、減災にも活用できると考えられている。

KUTの宇宙地球探査システム研究室では、これまで、2010年6月に初代「はやぶさ」が、2020年12月に「はやぶさ2」が帰還した際にもインフラサウンドの計測に成功しており、今回で3回目の挑戦となる。今回の計測は、宇宙地球探査システム研究室が米国サンディア国立研究所の観測計画への助言を要請されたことをきっかけに始まったという。米国および豪州の研究者との間でオンライン会合が重ねられ、「はやぶさ2」帰還時と同様にインフラサウンドセンサを用いて計測することで、両計画の比較観測を行うという国際的な貢献を提案した結果、計測に参加することになったとした。

OSIRIS-RExのカプセルは、初代「はやぶさ」や「はやぶさ2」のカプセルが夜間に帰還したのとは異なり、日中の大気圏再突入となった。そのため、流れ星のような光条による光学観測ができないことから、カプセルの軌道を決定することは困難となることが予想されていたという。それに対してインフラサウンド計測は周囲の明暗は関係ないため、「はやぶさ2」の帰還時と同じ精度で軌道決定が可能とした。

計測は、カプセルの通り道である米国ネバタ州ユーレカで実施された。サンディア国立研究所が用意した70台のセンサに加え、日本から運ばれた7台を合わせた計77台のセンサが設置された。その日本からの7台のうち、5台は宇宙地球探査システム研究室が開発に関わった、持ち運び可能な小型軽量のインフラサウンドセンサのSAYA製「INF04」だ。この5台は、「はやぶさ2」帰還時の計測で実績を有しており、今回の計測は過去データとの比較のためにも重要な役割を担うことになったとする。

  • インフラサウンドセンサのSAYA製「INF04」とKUTの学生が開発・製作した小型収録装置

    インフラサウンドセンサのSAYA製「INF04」とKUTの学生が開発・製作した小型収録装置(出所:KUT Webサイト)

その他にも、加速度計や絶対圧力計も用いられ、大気圏再突入後のカプセルが上空を超音速で通過する際に生じさせた衝撃波の計測が国際協力により行われた。そして、多地点で観測することに成功したという。

  • OSIRIS-RExが地球に帰還させたカプセル

    OSIRIS-RExが地球に帰還させたカプセル。小惑星ベンヌの資料に関しては、早くも分析結果が発表されている(c) NASA/キーガン・バーバー(出所:NASA Webサイト)

研究チームは今後、衝撃波を観測したインフラサウンドのデータ分析を進め、地球の大気中を通過する流星体の音の伝わり方などの飛行を記述するモデルの改善と検証を行う予定とする。また、流星体のサイズ・速度とインフラサウンドの特徴との関係を精緻化すれば、流星体の質量決定精度の向上や、上空大気の力学に関するより多くの情報の提供につながるとしている。