毒蛇のハブが持つ毒素から精製したタンパク質分解酵素が、アルツハイマー型認知症の原因物質とされるアミロイドベータを分解することを東北大学などの研究グループが発見した。人間の体内酵素がアミロイドベータを分解することは知られていたが、生物の毒素も効果的だと分かったのは初めて。アルツハイマー病の新たな治療法の開発につながることが期待されるという。
東北大学大学院農学研究科の二井勇人准教授(酵素化学)と小川智久教授(タンパク質化学)は、ハブ毒から金属イオンとタンパク質との相互作用を利用し、蛇毒メタロプロテアーゼというタンパク質分解酵素を分離、精製した。ハブは2018年に九州大学などのグループが全ゲノム解読に成功している。ハブ毒は11種類のメタロプロテアーゼを含む多くの成分によって構成され、「タンパク質のカクテル」といわれる。メタロプロテアーゼの働きによって、ハブに噛まれた人は内出血や血液凝固を起こすことが分かっている。
今回、二井准教授らは人間の体内に元来備わっている酵素がアミロイドベータを分解していることに着目し、この酵素と構造が似ていて、共通の祖先から進化したと考えられる9種類の蛇毒メタロプロテアーゼを取り出した。
9種類の蛇毒メタロプロテアーゼが混ざった「カクテル」を、アミロイドベータを分泌する細胞に作用させた。その結果、アミロイドベータだけを切断して、無害なアミノ酸が結合したペプチドに分解する様子が観察できた。ヒト培養細胞からのアミロイドベータの産生が大幅に低下したことも確認されたという。
ただ、蛇毒メタロプロテアーゼを高濃度で作用させたところ細胞自体が死んでしまうという毒性の方が強く発現した。二井准教授は「どれくらいの濃度であれば一番効果的なのか、マウス実験で確かめたい」としている。
また、9種類の蛇毒メタロプロテアーゼは「カクテル」のため、効果を発揮した種類が特定できていない。小川教授は「どの成分が効いたのかを検証していきたい」と話す。
ハブ毒は研究室内でDNAを増幅するPCR法や人工遺伝子によって作りだすことができるので、この研究が進めばアルツハイマー病の治療薬に応用できる可能性があるという。
研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業によって行われ、成果は8月12日にスイスの科学雑誌「トキシンズ」電子版に掲載され、東北大学が同31日に発表した。
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