2023年10月17日から20日まで幕張メッセで開催されている「CEATEC 2023」で、ソニーは、「誰もが自分らしく、感動を分かち合える未来のために。」をテーマに掲げたブースを展開。多様なニーズに応えることを目指してアクセシビリティを高めた製品や技術を紹介している。

  • CEATEC 2023のソニーブース

    CEATEC 2023のソニーブース

展示のテーマは「アクセシビリティ」と「インクルーシブデザイン」

ソニーが今年のCEATECでメインテーマに据えたのは、アクセシビリティの向上。年齢や障がいといった個人の特性、そしてその時々の環境によらず、誰もがいつでも利用しやすい製品・サービスの提供に向けて技術開発を進めている。

そうした流れの中で同社は、企画・設計の上流段階から、アクセシビリティの向上が必要となる高齢者・障がい者などと協力して一緒に検討する“インクルーシブデザイン”の取り組みを行っている。その背景には、誰しもが高いアクセシビリティを必要とするようになる可能性があること、そして「見過ごしている不便に気付く」という狙いがあるという。

  • ソニーが考えるインクルーシブデザイン

    ソニーが考えるインクルーシブデザイン

その背景には、「多数派のニーズに応えるための製品開発」の限界が到来していることがある。平均的なニーズに合わせたモノはすでに飽和状態にある上、ニーズを全体的な傾向として捉えることが難しくなっているのが要因だという。しかし、これまで少数派とされていた“制約のあるユーザー”は、未だに満たされていないニーズを多く抱えていることから、ソニーではそうした需要にアプローチしているとする。

そして同社は、従来広く行われてきた“制約のあるユーザーでも多数派と同じように利用できる製品づくり”によって配慮することを目指すのではなく、少数派のニーズを自分ごととして捉え巻き込むことで、社会全体の新たな価値として解決策を提供するため、インクルーシブデザインに取り組むとしている。

  • 従来型の“福祉的な配慮”とインクルーシブデザインの比較

    従来型の“福祉的な配慮”とインクルーシブデザインの比較。多数のニーズ(水色)を広げるのではなく、少数派のニーズ(緑)を多数のニーズへと取り込んでいくことを目指すという

認知症の早期発見にもつながる「におい提示装置」

認知症は、2025年に日本の患者が700万人に達するとも言われるなど、高齢化に伴う社会課題として表出している。近年ではその認知症などの発症の前触れとして、“においを感じない”という症状が見られることがわかっている。

そこでソニーは、認知症の早期発見を可能にするため、嗅覚の検査を手軽にするための技術開発に着手。そして独自のにおい制御技術を活用した「におい提示装置」の開発に至ったとする。

  • ソニーが開発した「におい提示装置」

    ソニーが開発した「におい提示装置」

同装置は、さまざまなにおいを瞬時に切り替えて提示するもの。従来の嗅覚検査では、1つのにおいが空間に充満してしまうため切り替えに時間を要してしまう点が課題だったが、“においを広げない”ことに強みを持つこの装置では、検査時間を短縮することができるという。

においを拡散させないための技術として、ソニーの担当者は、においのカートリッジや発出するためのアクチュエータの構造に特徴があると話す。カートリッジは非常に密閉性が高く、基本的ににおいが漏れ出すことはないとのこと。またにおいを出す場合には、独自構造のアクチュエータによってカートリッジを開閉するとともに、気流を作り出す機構によって必要な量だけを噴出させる。また鼻に向けて発したにおいは、装置中央部の吸引部からすぐに吸い取るため、外部への拡散を抑えられるとする。

  • 内部にはにおいのカートリッジがあり、そこから必要な量だけにおいの気流が発せられる

    内部にはにおいのカートリッジがあり、そこから必要な量だけにおいの気流が発せられる

  • 上部から発したにおいは、すぐ下の吸引部から吸い取られるため空間に拡散しない

    上部から発したにおいは、すぐ下の吸引部から吸い取られるため空間に拡散しない

前出の担当者は、「これまで長い時間を要することから健康診断などに導入することが難しかった嗅覚の検査も、この装置を使えば短時間で行うことができるようになる」とし、医療分野での展開に期待をのぞかせる。また食品業界などでも活用できるといい、「従来は人の感覚をトレーニングすることで基準としていたにおい評価についても、統一の基準をすぐに確認できるようになることで、作業の効率化を図ることができる」と話した。

白杖の機能をさらに高める歩行支援デバイスも紹介

視覚に障がいを持つ人が歩行中に携える白杖は、自身が歩行する先の状況を身体より先に感知するためのセンサのような役割を果たす。しかしその白杖には長さの限界があり、届かない範囲の物体を検知することはできない。また目的地に向かう際に視覚障がい者の多くはナビゲーションを用いるというが、それはあくまで目的地の近くまでたどり着くためのアナウンスであり、建物の入り口など最終的な目的を果たすところまで導くことはできない。

そこでソニーは、白杖に小型軽量なセンシングデバイスを取り付けることで利便性を高める、外出時歩行支援システムの技術開発を進めている。同システムでは、独自のセンシング・通信技術を用いることで、近くにある物体などを検知。白杖自体が届かない場合であってもその存在を認識し、音や振動で通知する。

  • センシングデバイスを用いた外出時歩行支援システムの展示

    センシングデバイスを用いた外出時歩行支援システムの展示

担当者によると、このデバイスはセンシングを行うだけでなく、通信技術によって周囲の状況を通知することもできるようになるとのこと。例えば、建物の入り口に情報発信デバイスを設置することで、先述の入り口がわからないという状況の解消が期待でき、「広く用いられているナビゲーションではわからないラスト数mの手助けをしたい」としている。

なおこの後付けセンシングデバイスは完成が近づいており、年内にはプロトタイプが完成する見込みとのこと。そして年明けには体験会などを開催しながら、社会課題の解決に寄与していくとする。

  • 小型センシングデバイスは年内にプロトタイプが完成するという

    小型センシングデバイスは年内にプロトタイプが完成するという

カメラやゲームでもアクセシビリティを高める開発を発表

またソニーブースでは、直進性の高いレーザによって網膜周辺部に直接投影することで、視覚に異常を抱える“ロービジョン”の人々をはじめ、視力が低下した人でもはっきりと見えた状態で撮影が行える「網膜投影カメラキット」、障がいを抱えている人にい限らず、さまざまな方法でゲームを楽しむことができるようにアクセシビリティを高めたPlayStation5用「Accessコントローラ」など、インクルーシブデザインによって生み出されたさまざまな製品を展示している。

ソニーブースの担当者は、「制約のあるユーザーのニーズから得た気付きを自分ごととして捉えることで、一見すると特殊な事例だと思う課題でも、広く社会に存在する課題とリンクし、多くの人に価値を提供する解決策を生み出すことができる」とし、「福祉的な取り組みとしてではなく、持続可能な事業としてさまざまな社会課題をクリエイティビティとテクノロジーで解決していきたい」と話した。

  • QDレーザとの協力により開発された網膜投影カメラキット

    QDレーザとの協力により開発された網膜投影カメラキット

  • ゲームのアクセシビリティを高めるPlayStation5用Accessコントローラ

    ゲームのアクセシビリティを高めるPlayStation5用Accessコントローラ