名城大学、三重大学、ウシオ電機の3者は10月17日、高光出力深紫外半導体レーザー実現に必要不可欠である、UV-B領域の波長298.1nmの「縦型AlGaN系深紫外半導体レーザー」を開発したことを共同で発表した。
同成果は、名城大 理工学部 材料機能工学科の岩谷素顕教授、同・竹内哲也教授、同・上山智教授、三重大大学院 工学研究科の三宅秀人教授、ウシオ電機、西進商事の共同研究チームによるもの。詳細は、(日本)応用物理学会誌の姉妹紙で応用物理学を扱う学術誌「Applied Physics Express」に掲載された。
紫外線は波長100~380nmの電磁波で、UV-A(波長:315~380nm)、UV-B(280~315nm)、UV-C(100~280nm)の3つに分類され、また波長300nm以下のものは深紫外線と呼ばれる。これらの紫外線を放射するレーザーが紫外線レーザーだ。
半導体レーザーは電流を注入することで、レーザー光を発生させることが可能だ。その特長はコンパクト(数mm程度のサイズ)、長寿命、低消費電力、高効率、任意の波長のレーザー光を生成できること、希少材料を使用しないことなどの優れた特性を有する。近年、UV-A~Cの広範囲にわたるAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)系半導体レーザーの室温発振に関する報告があるが、深紫外領域のAlGaN系半導体レーザーの光出力は最高でも150ミリワット程度に留まっており、光出力を増加させる技術開発が求められていた。
半導体レーザーの光出力は注入電流に加え、効率に依存し、デバイスへの電流注入を増加させるには、デバイスのサイズを大きくする必要がある。しかし、現在のAlGaN系紫外半導体レーザーは横型デバイスのため、電流を均一に流すことが難しい。つまり、大型化しても注入電流を増加させることが困難である。この課題を解決するためには、pn接合に対してp電極とn電極を対向配置した縦型デバイスの開発が必要だという。具体的には、以下の3点の技術開発が求められるとした。
- 絶縁性の基板を剥離する技術の開発
- 半導体プロセスの開発
- 光共振器の形成技術の開発
研究チームは今回、その実現を目指すことにしたという。
まず、(1)については、名城大、三重大、西進商事により共同開発され、サファイア基板上の高品質AlNは三重大が作製。周期的なAlNナノピラーは名城大により、ナノインプリントリソグラフィーおよびプラズマエッチングにより形成され、その上にAlGaN系のレーザー構造が積層された。さらに、固体パルスレーザーを使用してAlNとAlGaN界面の結晶が分解され、デバイス構造のみを剥離する手法が西進商事によって開発された。このような手法は「レーザーリフトオフ法」と呼ばれ、GaN系青色LEDでは広く使用されている技術だ。
しかし、AlGaNではAlドロップレットが形成され、これが結晶の破壊を引き起こす致命的な欠点があったという。そこで今回の研究では、AlNナノピラーが使用され、パルス固体レーザーを採用することで課題が克服され、再現性の高い絶縁性のサファイアおよびAlNの剥離する技術が開発された。またその剥離メカニズムは、三重大・名城大の共同研究により明らかにされた。
次に(2)に関しては、名城大とウシオ電機との共同研究により実現。電極や絶縁層、電流狭窄構造などを設計通りに製造する技術が開発され、レーザー発振に必要なデバイス構造の実現に成功したという。そして最後の(3)については、名城大でブレードを用いたへき開法が開発され、優れた光共振器が形成された。
これらの技術を結集して開発された縦型AlGaN系深紫外半導体レーザーは、室温・パルス駆動で動作させると非常に鋭い発光スペクトル(光の波長が揃っている)、TE偏光特性(光の位相が揃っている)、スポット状の発光パターン、そしてしきい値電流の確認など、レーザー特有の特性を示すことが確認されたとする。そして開発された縦型AlGaN系深紫外半導体レーザーは、UV-B領域に入る波長298.1nmの深紫外レーザー光を放射することに成功したという。
縦型AlGaN系深紫外半導体レーザーは、デバイス・サイズを大きくしても均一に電流を流すことが可能だ。そのため、1素子から1ワットを超える極めて高出力なレーザー光を得ることが期待できるとする。
さらに、これらを集積化することにより、数十~数百ワットの超小型レーザー光源を提供することもでき、それらはバイオテクノロジー、皮膚病治療などの医療用途やUV硬化プロセス、レーザー加工など工業分野への応用が期待されるとした。