国立天文台 ハワイ観測所は10月16日(米国時間)、9月15日に主鏡支持機構(固定点)に異常値が検出されたことからすばる望遠鏡は観測を中止して原因調査と望遠鏡への影響などの精査作業を継続中で、その詳細な状況報告となる第3報を発表した。
現地時間2023年9月15日に保守作業が行われ、その一環として望遠鏡の傾きを水平近くまで倒す稼働試験が行われた後、垂直に戻した際に3点ある主鏡支持機構の固定点に過大荷重を示す数値が検出されたという。その後、望遠鏡を支持するアクチュエータの電源をオンにして確認したところ、継続して固定点の荷重異常(正常値より低い値)が示されている状況とした。
また、9月15日の稼動試験中に、主鏡カバーの一部が自重で開き損傷が発生したという。さらに、後日になって当該カバーを修理中に、金属部分(ギアレール)が落下し、主鏡面に傷が生じたとした。今回生じたと考えられる傷は2か所とする。なお、過去にも同様に主鏡に傷が生じた事例があるが、その際には補修が行われている。また、主鏡表面が点検された際、今回の事象とは別の要因で生じたと考えられる軽微な擦り傷も発見されたとした。
すばる望遠鏡の主役ともいえる主鏡は超低熱膨張の「ULEガラス」製で、直径が8.2m・厚さ20cm・重量22.8トンというスペック、かつ平均誤差14nmという精度で研磨されているため、傷が付いたから新しいものと交換、というわけには簡単にはいかない。これによりすばる望遠鏡の性能低下を招くことが心配されるが、傷の補修自体は可能だという。
とはいえ、主鏡は脆性素材であるため、補修方法、仕上がり形状の検討、補修後の主鏡の強度解析などの技術的な検討を慎重に進めると共に、現地において安全に補修作業を実施する必要があるとしている。
9月27日に第2報が発表されて、そこで触れられていたとおり、さらに観測中止を継続して2週間ほど原因調査と対策のための作業が進められ、そして10月16日時点でより詳しい第3報が発表された。
まず、主鏡支持機構(固定点)の異常値に関しては、同日までに光学系検出装置(シャックハルトマンカメラ)を用いて主鏡自体に変形が見られないことが確認されたという。このことから、異常値の原因が固定点の力センサ本体の故障か、それ以外の故障かの調査に移行することにしたとする。固定点を含む主鏡支持機構の支持力が主鏡に負荷を与えないことを確認しつつ、主鏡形状のモデル計算との比較評価などの解析作業を進める予定とした。
なお、固定点の力センサが故障している場合は、センサの調達、交換方法の検討と実施、検査を経て復旧を完了させることが必要となるという。それに対し、固定点の力センサ本体以外の故障の場合は、不具合か所の特定が必要となるため、復旧までに数か月単位の時間を要する可能性があるとしている。
そして主鏡の傷については、詳細確認の結果、今回生じたと考えられる傷は26mm×19mmの大きさ(傷の深さは推定最大9mm程度)と、約10mm×7mmの楕円形(傷は前記より浅い可能性があるものの詳細な深さは今後検査)の傷だという。補修に向け、今後、傷の深さなどを精査しつつ、主鏡支持機構の支持力などの負荷を抑えると同時に、現地で安全に実施可能な傷の補修方法を光学メーカーと共に詳細検討した上で、確定する予定とした。なお今後も、修理・補修方針や観測再開時期などの見込みが判明した段階に加え、1か月に1度程度は随時情報をWebサイトにおいて更新する予定としている。
すばる望遠鏡は1991年に建設がスタートし、エンジニアリングファーストライトを迎えたのが1998年12月、共同利用観測が始まったのが2000年12月で、すでに30年近い歴史がある。常に点検が行われてはいるものの、経年劣化はどうしても避けられないところだろう。しかし、現在もアップグレード計画「すばる2」も進行中で、今後も世界有数の性能を誇る大型望遠鏡としての活躍がうかがわれる。今回の異常値検出や鏡面の傷なども無事クリアし、早期の観測再開を期待したい。