東北大学は10月16日、ナノメートルサイズの周期構造で構成される「アルミ製遮熱メタマテリアル」を開発し、熱となる近赤外波長は反射するが、可視光や5G/6G通信帯の電波は透過する、透明な遮熱窓用の基材を作製することに成功したと発表した。
同成果は、東北大大学院 工学研究科の金森義明教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国光学会が刊行する光学およびフォトニクスに関する全般を扱う学術誌「Applied Optics」に掲載された。
太陽光のエネルギーが窓を通過することで室内や車内温度が上昇するが、太陽光は一般に波長800~1400nmの近赤外領域のエネルギーが大きいため、近赤外領域の波長を選択的に反射する遮熱窓を開発できれば、エアコンなどの消費電力量を削減することが可能だ。ただし、現在、一般的に普及している遮熱ガラスは5G/6G通信帯の電波を遮断してしまうという課題があり、それをクリアする必要もある。
従来の金属薄膜や透明導電膜を使った遮熱窓は、中赤外線~遠赤外線の波長を強く反射することは可能だが、熱となる近赤外線に対しては反射率が低かったほか、5G/6G通信の電波も反射して遮断してしまっていたとする。また金属微粒子を使った遮熱窓もあり、こちらは近赤外線を選択的に反射(最大反射率50%程度)できるが、より高い反射率特性が求められていた。
この近赤外波長は反射するが5G/6G通信帯の電波(可視波長)は透過する透明な遮熱窓の基材を作製するため、研究チームは今回メタマテリアルを用いてガラスなどの窓表面に形成することを試みることにしたという。
今回の研究で開発されたアルミ製遮熱メタマテリアルは、石英ガラス基板上にアルミからなる十字パターンのメタマテリアル単位構造が周期460nmで二次元周期状に形成されたものだ(平面型のメタマテリアルは、「メタサーフェス」とも呼ばれる)。顕微鏡により、3.3cm×4.0cmの領域内に、均一にメタマテリアル構造が形成されていることが観察された。
遮熱メタマテリアルは、近赤外波長(約1.1μm、周波数約273THz)において、反射率80%超が得られ、ある領域では最大反射率86.1%が得られたという。この数値は、調査した中では最高値だったとした。
テラヘルツ波領域における透過率特性については、テラヘルツ時間領域分光法により測定した結果、6G通信での利用が期待されている0.2~0.3THz付近の周波数において、80%程度の高い透過率が得られ、有限要素法に基づく電磁界の数値計算結果ともよく一致していることが確認された。さらに、5G通信に割り当てられている28GHz帯の周波数において、80%程度の高い透過率が得られることも計測により確認されたとする。以上のことから、大気の温度を高める近赤外の周波数(約273THz)は反射して通さず、5G通信帯(28GHz帯)/6G通信帯(0.2~0.3THz)の電波は通す特性が得られたとした。
また、可視波長範囲で最大77.2%の高い透過率を有し、60°の傾斜角度をつけても約50%以上の透過率が得られたという。さらに、遮熱メタマテリアルの背後に映る風景を広い傾斜角度範囲において明瞭に撮影可能で、透明遮熱窓としての使用に好適であることが実証されたとする。
今回の遮熱メタマテリアルは、半導体微細加工技術を用いて作られるため、メタマテリアルの形状や寸法を調整でき、反射ピーク波長をニーズに合わせてチューニングすることも可能だ。ナノインプリントなどの技術を用いることで、将来は安価で大面積の遮熱メタマテリアルが実現できることが考えられるとしている。