藤田医科大学と日本IBMは10月17日、オンラインで記者説明会を開催し、同2日に羽田空港に隣接する複合施設内に開設した「藤田医科大学 羽田クリニック(羽田クリニック)」の包括的な電子カルテ・医療情報基盤をクラウド環境上に構築し、利用開始したことを発表した。
電子カルテをクラウド環境に構築した藤田医科大学が目指す研究医療
羽田クリニックは、隣接する次世代医療・研究の拠点「藤田医科大学東京 先端医療研究センター」で研究開発された最新の医療機器や治療方法を導入し、最先端の医療を提供することができるという。また、同大の関連大学病院で蓄積された医療情報をデータ化して活用するエビデンス健診/検診にも対応し、医療従事者による疾患の発見や治療に役立てる。
藤田学園 理事長の星長清隆氏は「先端医療研究センターでは、再生医療をはじめとした先端医療や立体CTなどの精密健診/健診、活動・生活リズムといった活動長寿に加え、研究室・医療機器ショーケースを担っており、現代医療を多様化させて質を向上させる拠点だ。今回の羽田クリニックは、同センターと愛知県豊明氏の藤田医科大学、センターの対岸に位置するキングスカイフロント、日本企業と連携して、新たな治療法の開発、診断を行う拠点としていく」と述べた。
現在、藤田医科大学では先端医療研究センターに加え、藤田医科大学病院、七栗記念病院、岡崎医療センター、ばんたね病院の計5拠点を展開。
先端医療研究センターを除いた4拠点における医療データを取り組みとして、愛知県・三重県におけるRWD(Real World Data)150万症例のデータがあり、これを活用しつつグローバル標準の医療データ交換規約であるHL7 FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)に準拠した臨床研究や知見を含めた研究医療を推進している。
また、同大では厚生労働省の「医療DX令和ビジョン2030」の方向性を率先して、課題解決する医療情報の効果的な二次利用とシステムコストの削減として、独自の電子カルテのビジョンを掲げている。
同大のビジョンでは、Phase1~Phase4まで段階的に進めており、現在はPhase1の二次利用連携プラットフォーム&セキュリティクリアランス、Phase2でクラウド上で電子カルテの稼働(災害対策など)に取り組み、今後はPhase3でオーダリングシステム、部門システムでの標準化コード、Phase4で電子カルテシステムのクライアントサーバからWebシステムへの切り替えとステップを踏む。
藤田医科大学 学長の湯澤由紀夫氏は「150万件のRWDに加え、羽田で展開する医療データをハンドリングし、臨床研究につなげていくかが大きな課題。現在はPhase1とPhase2に取り組み、Phase1では150万件のRWDをHL7 FHIRで出力する仕組みができたためセキュリティクリアランスと同時にセキュリティを高めるためのデータ暗号化、生成AIの実証などに取り組んでいる。そして今回、羽田クリニックで電子カルテのクラウド化により、海外とのデータの共有を含めてクラウド上で電子カルテを運用する取り組みをスタートさせる」と、説明した。
セキュアかつ高パフォーマンスと可用性を備えた電子カルテシステム
羽田クリニックの新電子カルテ・医療情報基盤は、藤田医科大学病院と同じIBMの病院情報システム「IBM Clinical Information System (CIS)」を使用していることから、IBMのデータ連携基盤により、容易に国際標準規格のFHIR()に準拠した外部のヘルスケアソリューションとのデータ連携ができるという。
加えて、Amazon Web Services(AWS)が提供するクラウドコンピューティング上で稼働することで、ベンダーや業界を超えたデータの相互交換を可能としている。
電子カルテ・医療情報基盤の特徴はAWSのクラウド環境による、データ分析、拡張性、事業継続性(BCP)を備え、共通インタフェースによる健診・不妊治療など、各種部門システムと連携できることに加え、施設間連携とレスポンスを実現する仮想クライアント技術とアーキテクチャとなっている。
日本IBMは羽田クリニックの電子カルテ・医療情報基盤の構想策定、導入、他部門との連携インタフェースの導入・設定、テストを支援したほか、金融サービス向けに提供してきた堅牢性、可用性、セキュリティに関する知見やアセットをヘルスケア向けに拡張したデータ連携基盤である「ヘルスケアDSP」も提供している。
将来的に、日本IBMでは藤田医科大学4病院との連携や情報システムの複雑・増大化やデータのAIによる解析・分析などの利用もふまえて、医療情報システムが持つ機能を最大限に活用できるよう、支援していく。
日本IBM IBMコンサルティング事業本部 執行役員の金子達哉氏は、システム構成に関しては「セキュリティと業務連携を勘案し、中核となる電子カルテシステムはAWSに配置したほか、施設内に配置された画像部門システムなどとも相互に連携して業務を支援する。また、健診システムはAWS上のPVC(Private Virtual Cloud)に配置し、セキュリティを担保しつつ電子カルテシステムから派生する健診者の基本情報、予約情報、検査などに関するオーダー情報を相互に連携することが可能だ」と説く。
また、金子氏は「患者、医療者、研究者の視点でベンダーや業界を超えた情報データの相互交換を可能にするハイブリッドクラウド環境での医療プラットフォームの構築を目指していきたい」と力を込めていた。
一方、AWSのクラウド環境で顧客のサービスを提供するために、AWSでが医療情報を取り扱うシステムを構築する際に参照される3省2ガイドラインに対応した「医療情報システム向け AWS 利用リファレンス」の文書作成など、AWSパートナーを支援している。
また、AWSは藤田医科大学におけるIBMサービスの活用に向けて、グローバルの知見・スキルを活用し、AWSサービス選定・構成検討・院内におけるクラウド利用ガイドラインの作成サポートなどを行い、医療機関におけるクラウド上での電子カルテ・医療情報基盤の構築に向けたセキュリティの向上を支援。
さらに、AWSのクラウド上での電子カルテの運用・稼働に、セキュリティ対策やデータのバックアップなどを標準機能として提供しているマネージドサービスなど、最新のテクノロジーが活用されている。
そのため、今後AWSは病院がインフラの運用管理の削減や臨床・オペレーション・研究の効率を向上し、病院がコアビジネスにフォーカスすることでビジネスの変革を推進するよう支援するという。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン 執行役員 パブリックセクター 統括本部長の宇佐見潮氏は「今回のAWSのアーキテクチャは、先端医療研究センターと同大は専用線やVPNを利用したセキュアなネットワークで接続し、シームレスなデータ連携を実現している。AWSから提供しているストレージやマネージドサービスを利用した、耐障害性やセキュリティの向上、運用効率を改善し、データの二次利用に向けて環境と連携を行い、将来的にデータを活用したAI/ML(機械学習)利用の検討も実施を予定している」と説明した。
藤田医科大学では、新電子カルテ・医療情報基盤を活用することで、健診から医療、予後(病気や治療などの医学的な経過に関する見通し)にわたり、患者や臨床の医療者のデータ利活用を支えることによって、厚生労働省の医療DX令和ビジョン2030に先駆けて、医療DXを推進していく方針だ。