かなり復活したMaker Faire Tokyo
2023年10月14~15日に、東京ビッグサイトにて「Maker Faire Tokyo 2023」が開催されました。Maker Faireは「ないものは作る」というMakerのお祭りですが、ここ数年はコロナ禍という事もあり、オンライン開催のみや会場縮小、人数制限もありました。
今年はかなり復活した印象を受けました。今年は学生メイカーを応援するためのコンテスト「Young Maker Challenge」のよる展示もあり新しい若いMakerが多数出展していたのが特徴です。
今回、時間的都合で取材は14日だけになりましたが、筆者的に気になったものをいくつか紹介しましょう。
復活の象徴ともいえるのが、人気のワークショップ「Nerdy Derby」の復活です。これは車を1から作成して走行スコアを競う子供向けのワークショップです。費用を払って最低限の素材を受け取ったあとはルール無用。
追加素材を受け取って空力を強化してさらに安定性や速度を高めた最速カーを目指すもよし、追加素材でデコるのもよし。東京では2016年から開始されましたが、大人気のコンテンツでした。
数回前から「まかいぞうオジサン」の協力でパーツの固定や修理を手伝ってもらえるほか、まかいぞうオジサンのメインツールであるホットボンドも組立テーブルに用意されたので親が協力すればかなりの車が出来上がります。
組立テーブルには試走用のスロープが用意されており、これで車を調整して本番コースでうまく走るようにします。とは言え、本番コースは結構速度が出るのでコースから飛び出す事も多く、レースで完走している人は結構少なめ。
ただ、今年は復活と言ってもスペースが狭く本番コースは1つだけで、1時間の入れ替え制でした。「スペースが限られているので多くの方に体験して欲しいのと、朝一番に来てコースを占拠する子もいるのでその配慮」とスタッフがコメントしてくれましたが、過去の来場者の中には「あちこち回って『これ買ってー!』とダダこねられるよりも、一日中Nerdy Derbyに張り付いてくれた方がラク」という声も聞いています。
1時間で1から作成してレースまで行うのはちょっとハードなので、来年はさらにスペースを確保して自由に遊べるようにして欲しいと思います。
自作MRIは新作。以前のは「売れました」
昨年に引き続き自作MRIを出品したのは八代(ブースS/01-05)の卓上MRI顕微鏡。顕微鏡というだけあって小型サイズです。MRIと言うと液体ヘリウムを使用した超電導電磁石というイメージですが、永久磁石を組み合わせても大丈夫との事。ただし、磁束をムラなくするような磁石の配置がキモになるとコメントしていました。
今回は新作なので、1つ前のものはと尋ねると「大学に売れました」との事。作ったものに関しても需要があるようで、去年画像認識でコーヒー豆を選別する装置で出展していた方が売って欲しいと交渉している現場に出くわしたことがあります(が心臓部のNVIDIA Jetson nanoが手に入らないからと断ってました)。
エンプラ対応3Dプリンタの自作と、陶芸に3Dプリンタを活用
3Dプリンタはすでに産業応用も進んでいますが、ご家庭でも利用できる安価な3Dプリンタと言うと素材にABSを使うものが多く、部品として置き換える程の強度や耐久性が得られないというイメージ。
これに対して、POMやPEEKに対応したという3Dプリンタを自作したのが真壁 友(ブース:F/02-05)のDIYスーパーエンプラ対応3Dプリンタです。装置全体をヒーターで温めた上でモーターやノズルより手前の温度を下げるために水冷エクストルーダを設置しています。
3Dプリントサービスも多い中、自宅にエンプラ対応3Dプリンタを置く意義として「試したい時にすぐに作れる」という点を挙げていました。
美術系はあまりテクノロジーと関係ないと普段すっ飛ばしているなか、粘土対応の3Dプリンタを導入して色々とやっていたのがいとうみずき(ブース:D02/08)のしゃかりき陶磁器です。
セラミック対応の3Dプリンタを作って造形した後は普通に焼いて作っているのですが、積層プリンタゆえの模様が味を出しています。
非常に興味深かったのは同じ3Dモデルを使いつつ、ノズルの形状を変えるだけでかなり作品の雰囲気が変わる事。また、器の内側も外側にもテクスチャが付く事から釉薬のかかり具合が変わってかなりイイ感じの景色ができていたのも印象的でした。
ノズルから出す事なので磁器と言ってもかなり厚めなものになっていましたが、複雑なテクスチャの器を量産することもできると考えると、かなり実用性がありそう。
企業も新技術・製品を紹介
Maker Faireには個人Makerだけでなく企業の出展もあります。今回一番面白いなと思ったのがフォスター電機(ブース:O/01-01)の展示でスピーカー技術を応用したハプティックスデバイスなどを展示していました。
スピーカーのコーン部から上を排した構造は同社のスピーカー製造を生かしたもの。振動モーターやリニアデバイス、ピエゾと比較して広いダイナミックレンジが魅力でした。一方大きさにはまだ課題があるようで、小型の試作品も展示していました。
もう1つ面白かったのはカナル型イヤホンに9軸センサを仕込んだもの。9軸センサを使う事で顔の向きを正確に知ることができ、従来カメラトラッキングを行っているVTuber向けのデモを行っていました(カメラを使わないと口パクや視線には対応できませんが、お互い補完すると面白そうです)。
無線関係アレコレ
展示会会場は多くのデモブースがあり、来客者も多いので特に2.4GHz帯のWi-Fiは超混雑で使えないことも多くありますが、初めて出展するMakerは戸惑うようです。
小型ロボットによるサッカーを行う小型ロボカップ(RoboCup SSL)のチームが合同で出展しておりミニサイズのフィールドで動作をデモしていました。ミニサイズと言ってもロボット本体は直径180mm、高さ150mm以下で、フィールドは12×9mなのでそこそこスペースを取ります。 そこで、ベテランチームのOP-AMPとRootsが合同でさらに小さなマイクロサイズのロボサッカーの展示も行っていました。
小型ロボカップの特徴は運営が位置情報を提供するという事。地上4mに複数のカメラを設置し、ロボット上部のマーカーとボール(オレンジ色のゴルフボールを使用)を判別。その情報を各チームに送って、チームはそれを元に指令を送ることができます。今回のデモでは5GHz帯のWi-Fiを使っていたそうです。
一方、マイクロサイズのロボットの方は「コントロールにESP32を使っているので5GHzのWi-Fiが使えず2.4GHzを使ってます」との事。5GHz帯が使える使いやすい技適取得済モジュールが望まれます。
一方、プラレーラーズ(ブース:Y/01-09)はプラレールCBTC:障害物を避けて運行を継続する鉄道システムを展示。要所にNFCのカードを置くことで、電車がいるエリアを把握し、車両とのやり取りは(昨年会場で2.4GHz Wi-Fiに苦労したので)BLEを使っています」とコメントしました。制御はやはりESP32を使っていましたが、データ量があまり多くないのでBLEにしたのは正解でしょう。
コースにNFCカードを使っているのは「張り付けるだけでよいのでレイアウト変更に柔軟に対応できるのと、コースにリーダーを設置するとケーブル配線がでる」との事でした。
目指せ! CEATEC出展。2014年創業のスタートアップが大臣賞受賞
原稿アップが遅れて、月曜日(10月16日)のCEATEC 2023プレスデーにも来てみましたが、そこで興味深いブースがありました。元々銀ナノ粒子をインクジェットプリンタで打ち出して回路を作るというAgICという会社がありまして、その後エレファンテックと名前を変えましたが、過去のMaker Faire Tokyo 2014/2016/2017/2018に出展しました。当時は面白いスタートアップ企業が出てきたなぁというイメージでした。
今回、プレスデーのブリーフィングでエレファンテックの基板がCEATEC AWARD 2023経済産業大臣賞を受賞したことが公表されました(他のAWARD受賞会社はスタートアップ部門以外はそれなりに知名度のある会社ばかりなので快挙でしょう)。
エレファンテックは銀ナノ粒子から銅ナノ粒子に変えており、無電解銅めっきを施すことで膜厚を増やし、銅の使用量削減と環境負荷を大きく減らす技術となっています。
公表されている採用事例としてEIZOのFlexScan EV3895のパネル部分に使われているそうで、CEATEC AWARD受賞により知名度は格段に上がると思います。