2023年10月17日から20日まで幕張メッセで開催されている「CEATEC 2023」で、京セラは“we connect new stories”というメッセージのもと、CEATEC AWARDのアドバンストテクノロジー部門でグランプリを受賞した「マイクロLED/マイクロレーザー用独自基盤と新工法」など、幅広い領域で事業を展開する同社ならではの多様な製品およびソリューションを紹介している。
画期的な新手法により高品質なマイクロLED製造が可能に
近年、有機ELに代わる次世代のディスプレイ光源技術として技術開発が進んでいるのが、マイクロLEDだ。従来のLEDに比べて100分の1~1000分の1に小型化させることが可能なマイクロLEDは、ディスプレイの高精細化に加え、3Dプリント、光通信、医療用途、車載ヘッドライトなど、従来のLED光源では実現できなかった幅広い領域への適用も期待されている。
これらディスプレイ以外のユースケースでは、マイクロLEDに対して高い光出力が求められる。出力を向上させるには高電流密度での使用が必要であり、長寿命かつ安定した動作を実現するためには、高品質なマイクロLEDの作成が必要になる。しかしマイクロLED用基板の製造では、結晶を成長させる際にある程度の欠陥が生じることが常で、その高品質化には限界があるとされていたという。
こうした中で京セラは、結晶をわずかに縦方向に成長させ、その後横方向に成長させる新技術「Advanced-ELO」を独自に開発。横方向の結晶成長では欠陥密度を大きく低減できるため、高品質の薄膜をSi(シリコン)やサファイアの上でも製造できるようになったとする。これにより、高品質化に強みを持つGaN(窒化ガリウム)と比較して安価な基板材料を用い、より低コストでのマイクロLED製造が可能になるとしている。
今回のブースでは、EGOS基板の超低欠陥領域から作成されたマイクロLEDを1mm角の配線基板に340個一括実装したアレイを展示。またマイクロLEDに比べて作製が難しいレーザーも同基板から作成できるといい、Si基板上で100μm長短共振器レーザーの室温連続発振にも成功したことを発表済みだ。
京セラの担当者は、新技術を学会などで発表した際に驚きや「本当にできたのか?」という疑いの声がかかるほどの革新性があるとしており、「日本からマイクロLEDの技術を再発信していくきっかけになってほしい」と、同技術が市場に与えうるインパクトの大きさを強調する。
また「現時点ではサンプルを供給し始めることができたところ」だといい、「さまざまなLEDやレーザーを製造するメーカーへと展開していくことで、幅広い領域であらゆるデバイスを実現してもらうなど、より多くの顧客に使用してほしい」と語った。
幅広い事業領域を活かした「新たな媒介」に注目
また京セラブース内では、10月11日に基礎技術の開発が発表されたばかりの「空間伝送型ワイヤレス電力伝送システム」や、GaN基板を用いた可視光レーザー高速無線通信技術など、電力やデータを新たな媒介によって届けるソリューションを紹介している。
前者のワイヤレスシステムは、電力をマイクロ波の形にして特定の対象へと送信し、受信した側で電力への変換を行うという給電システムで、ドローンなどモビリティの航続距離延長や、場所を問わないスマートフォンのワイヤレス充電など、“充電のいらない世界”を実現しうる技術だ。
デモ展示では、モーターとマイクロ波受電アンテナのみを搭載したミニカーとドローンを用い、空間を介した電力伝送および伝送先の切り替えを実演している。
一方の後者は、電波が届かない水中でのデータ伝送を実現するために必要となる通信技術で、京セラが保有するGaN基板を活用したソリューションだ。可視光、特に緑色から青色にかけての波長は減衰が少ないため、理想的な実験環境であれば数百mのデータ伝送も可能だという(障害物などの多い実際の海ではまだ数m程度)。
同社担当者は、この水中通信技術を用いた未来の用途について、水中のモニタリングデータやセンシングデータの伝送を挙げ、それらの情報を地上につなぐことで、さらに有効な水中データの活用法が創出されることが期待されるとする。
昨年も注目を集めた空中ディスプレイも展示
なお京セラはこれらの展示に加え、データセンターの消費エネルギー削減やサーバーの小型化に寄与するとされる液浸冷却の実現に一役買う「オンボード光電気集積モジュール」や、昨年のCEATEC 2022で注目を集め今回は“温度”を感じることができる「高精細 空中ディスプレイ」の展示など、計8つの製品・技術を展示している。