大阪公立大学(大阪公大)は10月12日、抗体産生がピークとなる新型コロナワクチン接種後17日~28日の血液を採取し、産生された抗体のレパートリーを1人ずつ調べた結果、抗体がワクチン抗原である新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイク(S)タンパク質のどの部分を標的とするかにより、主に3つのタイプに分類されることが判明したと発表した。
同成果は、大阪公大大学院 獣医学研究科の安木真世准教授、同・大学院 医学研究科の城戸康年教授を中心に、大阪公大 大阪国際感染症研究センターの研究者も参加した共同研究チームによるもの。詳細は、ワクチン学の関連分野全般を扱う学術誌「Vaccine」に掲載された。
新型コロナワクチンの接種により産生される抗体のうち、Sタンパク質の受容体結合領域(RBD)とN末端領域(NTD)に結合する抗体は、感染や発症、重症化を防ぐ重要な役割を担う。
SARS-CoV-2のSタンパク質の一部であるRBDは、ウイルスがヒトなどの哺乳類細胞に結合する際に哺乳類細胞の受容体に結合する領域で、ウイルス感染の第一歩を司るといえる。一方のNTDは、SARS-CoV-2のエンベロープ(外殻を形成する脂質二重膜)上に突出しているSタンパク質の一部だ。
また、RBDに対する抗体は受容体へのウイルス結合を阻害することで感染を防御する中和抗体として知られる一方で、NTDに対する抗体は、ウイルス感染を防御する中和抗体と、反対にウイルス感染を増強する感染増強抗体の2種類が報告されているという。
抗体レパートリーは血清ごと(つまり個人ごと)に多様性に富んでおり、レパートリーが変異株への防御能力に影響することが示唆されているものの、その全容はまだわかっていなかったという。そこで研究チームは今回、ファイザー製「BNT162b2ワクチン」の接種者16名の血清を用いて、各血清のウイルス防御における主要標的領域を決定し、さらに変異株に対する防御能力との関係性を評価したとする。
実験は、哺乳類細胞を用いたウイルス感染実験を基盤として行われた。まず、血清に人工合成されたRBD、またはNTDタンパク質を吸着させることで、従来(武漢)株に対する防御能力の変化から、抗体のレパートリーが調べられた。
その結果、3血清は合成NTDタンパク質吸着時に、13血清は合成RBDタンパク質吸着時に、もう一方のタンパク質吸着時と比較してウイルスへの防御能力が減少することが確認された。つまり、3血清はNTDが、13血清ではRBDがそれぞれウイルス防御における主要標的であることが明らかになったのである。
さらに、RBDを主要標的とする13血清のうち、4血清は合成NTDタンパク質吸着時の防御能力がタンパク質非吸着時と比べて高かったことから、感染増強抗体を持つことが示唆されたとしている。
次に、SARS-CoV-2の各変異株(アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、オミクロン)に対する防御能力を、抗体レパートリーごとに調べたとのこと。すると3タイプとも、従来株に対する防御能力と比較して、アルファ株では同程度、ベータ株とオミクロン株では低下、ガンマ株では増加することが判明したという。
一方、デルタ株ではRBDを主要標的とする2タイプ(感染増強抗体あり/なし)では、防御能力は従来株のそれと同程度であるのに対して、NTDを主要標的とするタイプでは低下することが確認された。これらの結果から、NTDを主要標的とする血清では、従来株と比較してデルタ株への防御能力が低いことが突き止められたとしたうえで、感染増強抗体の有無は変異株への防御能力に影響しないことが示唆されたとする。
なお研究チームは、今回の研究で用いられた血清数は16であるため、結果は限定的であるとしており、解釈を一般化することは困難だという。また、抗体産生量がピークとなる1点における結果のため、時間経過と共にどのような変化が認められるのか定かではないとする。研究チームは今後、これらの課題について1つずつ解明していくことにより、個人の抗体レパートリーと、変異株に対する防御能力との関係性の詳細を解明することが重要であると感じているとしている。