東京大学(東大)は10月12日、中性子星で発生している可能性がある謎の天体現象「高速電波バースト」(FRB)の統計的性質を調べることで、地球の地震と性質が酷似した「余震」が起きていることを解明したと発表した。

同成果は、東大大学院 理学系研究科の戸谷友則教授らの研究チームによるもの。詳細は、英国王立天文学会が刊行する天文学術誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」に掲載された。

  • 中性子星/マグネターの想像図

    中性子星/マグネターの想像図(c) ESO/ L. Calçada(出所:東大Webサイト)

FRBはわずか数msという短時間で、電波によって輝く突発天体であり、数十億光年もの彼方で発生していると考えられている。これまでに600個以上が検出されており、そのうちの50個ほどは、繰り返してバーストを起こす「リピーター」だとされ(それ以外がリピーターとなるかどうかはわかっていない)、中にはすでに数千回も検出されている活発なFRB源もいくつかある。

FRBと関連が深いとされるのが、宇宙最強の磁気を持つ中性子星である「マグネター」だ。周期的なパルスを発する中性子星の「パルサー」も強い磁気を有するが、マグネターは通常のパルサーの100倍以上、100億T(地磁気は0.00003~0.00006T)という強力な磁気を帯びていることが特徴だ。

マグネターでは時折、ガンマ線やX線のフレアが観測されており、FRBの検出例もある。マグネターのFRB発生メカニズムの詳細は不明だが、有力とされるのが強い磁気エネルギーが徐々にマグネター内部から浮上してきて、それが表面を覆う固体地殻を歪め、そこに蓄積されたエネルギーがある時突然、星震(地震)によって解放されるという仮説だ。そのため、地球で起きる地震や太陽フレアとの類似性がこれまで議論されてきた。そこで研究チームは今回、1つの中性子星で発生している多数のFRBの発生時刻の統計的性質に着目することにしたという。

まず、最も活動的な3つのFRB源から検出された7000回弱のバーストの発生時刻とそれらのエネルギーの間に相関があるかを調べるため、数学的手法の「二点相関関数」が適用された。その結果、1つのバーストが発生した直後は関連した余震のバーストが起きやすくなっていることが判明。また、余震の起きやすさ(頻度)が、経過時間のべき乗(1/tp)で減衰することも確認された。余震の頻度がこのように変化することは地球の地震でよく知られており、世界的に「大森法則」または「大森・宇津法則」と呼ばれている。

  • FRBおよび地震の発生時刻とエネルギーの分布の一例

    FRBおよび地震の発生時刻とエネルギーの分布の一例(エルグはエネルギーの単位で1erg=1/107J)。下側はこれらを解析して得られた相関関数、つまり「余震の起こりやすさ」を、前のイベントからの経過時間の関数で示したもの。どちらの現象でも、1つの現象の継続時間(FRBは数ミリ秒、地震は数分)より長い時間領域で、直線的に右下がりになっている。これは余震の頻度が時間差tのべき乗(1/tp)で減衰していることが示されている。FRBと地震で、この性質がよく似ていることがわかる(出所:東大Webサイト)

さらに、あるバースト/地震の後、余震の発生確率が10〜50%という点も、FRBと地震で共通していたという。FRBや地震の活動性は変動しており、活動性の高い時期は多くのバーストや地震が起きるが、この余震が起こる確率は、どちらの現象でも普遍的で、常に安定して同じ確率で起きていることもわかった。また、あるバースト/地震とそれに続く余震の間には、エネルギーの相関は見られないことも共通していたという。唯一異なっていたのは、大森法則のべき指数pの値がFRBで2程度、地震で1程度という点だけだったとする。

これだけ多くの類似点が偶然の一致で生じたとは考えにくく、2つの現象の間に本質的な共通点があることを示唆しているとする。一方で、太陽フレアに同じ解析が行われたところ、FRBや地震とはまったく異なる結果が得られたとした。中性子星表面や地球の地殻が個体であるのに対し、太陽表面が流体である点が理由として考えられるとした。

今回の研究により、余震の性質については、FRBと地震の間に大きな類似性が見られるのと同時に、太陽フレアとは明確に異なることが判明した。このことはFRBの発生メカニズムが上述した仮説の通り、地震によく似たものであることを強く示唆しているという。ここまで具体的に地震との類似性を示すほかの天文現象はなく、FRBの起源を解明する上で強力な手がかりとなるとした。

また、リピーターFRBの観測データは今後も増加していくことが期待されており、より多くのFRB源からのバーストデータを今回の手法で解析すれば、FRBの余震の性質の普遍性やFRBのほかの性質との関連を調べることができ、FRB現象の理解をさらに深められる可能性があるという。

また、地震の余震の起きやすさの大森法則は、地球の地殻の物理的性質や破壊プロセスに関連していると考えられている。たとえば大森法則のp値の違いを理論モデルと比較検討することで、中性子星の固体地殻の物理的性質に関する情報を引き出せる可能性があるとする。中性子星の内部は、宇宙で最も高密度に物質が凝縮している場なので、原子核物理学など、物理学の基礎理論の検証という観点でも重要とするため今回の研究で、FRBを使って中性子星の内部物質を探るという新たな可能性が見えてきたとしている。