東京工業大学(東工大)とEX-Fusionは、レーザー核融合商用炉の実現に向けた発電用液体金属デバイスの高度化に関する研究を行う「EX-Fusion liquid metal 協働研究拠点」を設立し、10月11日に調印式を行ったことを発表した。
カーボンニュートラル実現に向けて、温室効果ガスを排出しないエネルギー供給技術が急ぎ求められている中、レーザー核融合技術については、持続可能なエネルギー源として国内外で期待が寄せられている。
核融合反応とは、水素などの原子核が高温・高圧下で融合してヘリウムなどのより思い原子核に変わること。その例としては、太陽が非常に大きなエネルギーを生み出す仕組みなどが挙げられる。そしてレーザー核融合は、レーザーを燃料に照射することで核融合反応を起こし、エネルギーを発生させるための技術で、海水資源を活用するため安全で持続可能なエネルギーを供給することができる。また、生み出す電力量を変化させることができるため、負荷変動に対して柔軟な対応が可能であることから、脱炭素化への貢献が期待されている。
しかし、世界中で技術的な課題やエネルギー効率化に関する多くの研究開発が進む中でも、現時点で商用のレーザー核融合炉は実現していないという。今後、独自の核融合技術群の開発とその応用については国際的な競争が激化することが予想される中、日本においては、2023年4月に政府が「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を策定したことで、国内での核融合エネルギーの研究開発環境が整ってきている。
こうした背景を踏まえ、液体金属流体を用いたエネルギー変換システムの学術研究を行う東工大は、同大学 オープンイノベーション機構の支援のもと、レーザー核融合炉のレーザーや燃料ターゲット技術の開発を行うEX-Fusionと、協働研究拠点を設立するに至ったとする。
同拠点では、レーザー核融合炉に適した液体金属燃料増殖ブランケットの概念を高度化し、必要とされる液体ブランケット要素技術の開発を目指すとのこと。商用炉における液体金属燃料増殖ブランケットの運転に必要となる高純度の液体リチウム鉛燃料増殖材については、その大量合成技術を、東工大の技術的蓄積により高度化するといい、また液体金属技術を応用したレーザー照射システムの最終光学系の開発も目指すという。そしてこれらの技術を結集し、レーザー核融合炉のエネルギー変換と発電性能を評価しうるブランケットモックアップループの詳細設計を行うとしている。
さらに東工大は、共同研究により得られた知見や液体金属技術群について、深宇宙探索用の低融点金属ミラー、海水淡水化や環境浄化技術など、核融合にとどまらないさまざまな応用分野での利用が期待されるとしており、広範な技術応用にもEX-Fusionと共同で取り組むことで、技術の社会的実装を最大限に推進していくとした。
なお両者は、2026年までの3年間で、レーザー核融合炉の燃料サイクルの鍵を握る液体燃料増殖材の高純度合成法を高度化し、世界中で行われる核融合エネルギー開発を支えられるような供給能力を持つ技術の開発を目指すとのこと。また、液体ブランケットシステムの概念設計を行う一方で、その長寿命化や稼働率向上にかかわる要素技術開発を行うとする。
そして、それらのブランケット技術をEX-Fusionが開発するレーザー核融合炉へと統合させることで、10年以内のレーザー核融合エネルギー実現を目指すとしている。